事態は深刻 8
「よく判ったわ。リントンご苦労様でした」
「御嬢様此れからどうなさる御積もりでしょうか。此れで自警団の暴走には繋がらないと思われますが」
リントンさんが、あたしの顔を見詰めている。その表情は、真剣な物に見える。令嬢なら此れで、安心して事態を静観するのだろうけれど。あたしはそんなことは出来ない。あそこの長がやってくれるとしたら、アリバイ造りのために、使いの者を出すだけだろう。本気で保護するために人を動かしてはくれない気がする。
一人使いの者を出すことで、命令にしたがったと言うことが出来る。だから、もし密猟者達の家族が、自警団の暴走に巻き込まれても、間に合わなかっただけで。ギルドにはなんの落ち度も無いと、言い出すかも知れない。
集団心理による暴走は、其れが集団であるが故に歯止めが利かないこともある。此れまで、あたしは何度も見てきたのである。例えば一人一発ずつ殴ったとしても、それだけで被害者は死んでしまうかも知れない。それに、此れは明らかに犯罪だから、その家族には人権は無いと考える人間もいるから。うっかりすると奴隷に勝手に落とすかも知れないのだ。
そして、困った事に、自警団の存在は街の安全の一翼を担っているのだ。只、時々犯罪者に対して、容赦しないようなことがあった。一般市民の有志による物なので、前世の警察みたいなことを期待することは出来ない。本来ならば、そんなことでは良くないのだけれど。
如何しても貴族の中に、庶民の生活など考える物は少数派なのだろう。前世みたいには、この国の治安は良く無いのである。だからといって、ラノベの主人公みたいに、国をよくしていこうなんて出来るわけも無い。だって、あたしは元不良少女なんだよ。
「そうですね。このまま放っておくと、無実の民が、リコのために辛い思いをするかも知れないわ。せめて、あの人達の家族が自警団の暴走に巻き込まれないように為たいと思っているわ」
「其れはギルド長に命令を為てありますので。心配は無い物と思われますが」
「それでも心配なのは仕方がないでしょう。だから、私の目で確かめたいと思います。リントン、お疲れ様」
リントンさんは少し戸惑ったような顔を為て、あたしを見ていた。何か言いたそうだったけれど、用は無いと言う仕草で、退室を促した。これ以上長く話していると、張れてしまいそうな気がしたのだ。変かなとは思うけれど、話しているのが苦痛になってきた。
「では姫様。御用があればお呼びください」
リントンさんが退室の挨拶を為て、扉を閉めた。あたしは心の底から、安堵の溜息を付いた。どうやら気付かれないで、三人組の家族の居る場所を知ることが出来た。此れで助けに行ける。
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