事態は深刻 8
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リントンさんは、あたしの顔をまじまじと見詰めてくる。何を考えているのか、今のあたしには推し量ることも出来ない表情を為ている。口角が少しだけ上がっているから、決して不機嫌では無いのだろう。
あたしの内心を悟らせないように、頑張って表情を作る。兎に角緊張感が半端ない。本当に勘弁して欲しい。
「御嬢様が最近は、ナーラダのリコと、打ち解けている様に見えておりましたが、其処まで好意をお持ちに成られているとは、思いませんでした。姉妹とお認めに成られるのですか」
「そうね。御母様が姉妹とお認めに成られたのですから、そう考えることに為たいと思っているわ。だから、あの子が殺されそうになったことに興味があるのよ。もしかすると、私が誘拐された事件と、関わりがあるかも知れないでしょう」
早くリントにさんが納得してくれないかな。これ以上、話が長くなると、ボロが出そうだ。それに、あたしの部屋で聞き耳を立てている、マリアが何度も身じろぎをする音が聞こえているので、気が気では無い。気付かれたら終わりなのだから。
リントンさんの表情が笑顔に変わった。此れまで見たこともない良い笑顔である。
「其れは様御座いました」
と、リントンさんが言った。そして、恭しく持っていた紙をあたしに渡してくる。
あたしにその紙に目を落とす。そこには神経質そうな筆跡で、今回の事件をまとめた報告が書かれていた。未だ完成している物では無いのだろう。覚え書き的な物のようである。
「此れは」
「奥様に報告するための報告書の下書きになります。未だ事件の全貌を調査し終えておりませんので。途中まででは御座いますが、取り急ぎとのことでしたので、お持ち致しました」
マリアが気を利かせてくれたみたい。あまり時間を掛けては居られないから、リントンさんを説得する手間が省けてしまった。彼を言いくるめる自信が無かったら助かった。
あたしはその内容にざっと目を通した。あの三人組の住所と家族構成が書かれている。一番知りたかったことだ。思った通り、全員家族持ちだった。其れと良かったことは、狩猟ギルドの在る建物から、其程離れたところでは無い上に。同じアパートの住人だった。
一番最後の項目に、リントンさんが今日出かけた理由と、やって来たことが書き込まれている。ギルドの長に密猟者達の家族を、自警団から保護するように命令してきてくれたらしい。あたしは内心ホッとしたのだけれど。そんなことを顔には出せない。




