事態は深刻 7
急いで暖炉の前の椅子に座って、深呼吸をすると返事を返す。あたしが側に居れば、あたしが扉を開けるのだけれど。今は一人だ。仕方がないので、自分で開けて貰うことにする。マリアなら、自分から扉を開けることはしないと言っていたからである。
なるべく彼女らしく振る舞わなければ行けない。顔も髪型もそっくりなのだから、見分けが付かないはずだけれど。でなければ影武者なんて出来るはずも無いのだから。
実は多少体型は違ってしまっているのだけれど、ドレスを着てしまえば見分けが付かないと思う。後は話し方や癖を真似れば、見分けが付かないはずだ。
一呼吸の間があって、扉が開いた。ヘクター・リントンさんが、何時もの執事服をバッチリ決めて立っていた。軸に格好いい立ち姿と思う。
「お早う御座います、御嬢様」
リントンさんが、あたしに対して丁寧なお辞儀を為てくれる。右足を下げて、右手を胸の辺りに当てている。その右手には、何枚かの紙が在った。因みにあたしは、こんなに丁寧な挨拶を受けたことは無かった。そりゃそうだ、今のあたしはマリアなんだから当然のことなんだろう。
「お早う。今日も良い朝ね。暖かくなってくれるともっと良いわね」
普段のマリアのように、微笑んでみせる。因みに彼女は、あたしに対して、こう言った微笑みを見せてくれたことはない。確かリントンさんに対しては、何故か微笑んでみせるのだ。とう言うことなのか、後で聞いてみよう。
因みに、ここでコーツイはしない。相手は年上の男性とは言え、ヘクター・リントンさんは使用人に過ぎないのだから。マリアならそう言ったことはしなかったと記憶している。
内心はドキドキ物で、背中にはじんわりと冷や汗が流れてきていた。厚手のドレスで良かったなと、あたしは思う。なんとしてもだまし仰せなければ、密猟者達のことを知ることが出来ないのだから。
「昨日の、リコの一件について正確なことを知りたいとのことでしたが、どのようなことがお知りになりたいのですか」
「全てのことを知りたいと思うのです。貴方はその為に、早朝に出かけたのでしょう。あの子は私の妹なのでしょう。今の処は私のメイドでしか無いけれど、それでも心配してしまう物だとは思いませんか」
なんとも言えない台詞をあたしは吐いた。なんか背中から、むずがゆい物が這い上がってくるような気がする。ここで耐え抜かなければ張れてしまう。頑張れあたし。耐えるんだあたし。
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