鼠さんの会合
鼠さんは生き延びたい。
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既に日は落ちて、室内を照らすのは月明かりと、ランプの小さな明かりのみ。木戸を開けてはいるので、外気の湿気のある暖かい風が、不快なものにしている。
古びたアパートの一室に、3人の男達が顔をつきあわせている。その全員が、この国の職人がよく着ている服を着ている。そのどれもが、使い込まれていて、違和感を感じさせない物である。数年前から準備して、この目障りな女傑が、支配する領地に進入することに成功していた。
これまでも何度か、この領地に対して攻撃を仕掛けては手痛い目にあってきていたが、彼らの雇い主は諦めること無く、確実に手を打ち続けている。今回の作戦は、娘の誘拐とそれに合わせた破壊工作。誘拐そのものは、成功してもしなくても良いが、デニム伯爵夫人への揺さぶり。人心への不安の増大が目的である。
今回の嵐により、領都に常駐している兵力のほとんどが、出動しており。手薄となった領都の警備体制は、脆弱なものとなっている。遣りようによっては、デニム伯爵夫人の命までも視野に入れることが出来る。
「これは千載一遇の好機では無いだろうか」
この領都に、最近任務ではいってきたばかりの男が言った。彼は、早く結果を出して本国に帰りたいと思っている。本国には、幼い息子が待っているのである。まだ若い妻にも会いたかった。あまりにも長い時間、この田舎にいて、妻が他の男と関係を持ったらと、考えると気が狂いそうになる。
「いや。誘拐には失敗した上に、あの女傑に動揺は無いようだ。これは危険な兆候では無いか」
構成員の中で、最も長くこの領都に住まう男が言った。彼はこの国に潜り込むこと、二十年は住んでいる。今となっては、本国にいた時間よりも長いぐらいである。奇跡の忠誠心と言えるだろう。本国には人質となっている者が、最低でも一人はいるのだから、裏切ることも中々出来ない上、心を縛られてもいる。
ノア・グレンは、生き延びるためにはどうしたものかと考えながら、二人の意見を聞いていた。ここに送り込まれている人員が、それなりにはいるが、デニム伯爵の私兵の数は、戦力と考えることが出来る数を遙かに上回っている。ちゃんとした訓練を施された物は、片手の数しか居らず。他は金で動くものがほとんどで、ちゃんとした忠誠心は期待できない。命の遣り取りには、向かないだろう。
彼はこれまで、この嫌な予感を感じたときには、場所を変えることで危機を回避してきた。そして、今このとき自分の首に、死に神の鎌が掛かっているような気がしていた。
「女傑の首をつる好機ですね。あの女の首を土産に、本国に帰れるかも知れませんよ」
「やはりそうですよね」
自分の意見の賛成を得られたと、新参の男が言った。それはそれはうれしそうな表情をしている。