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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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汚い大人 5

 不意にターラント男爵の執務室の扉が、ノックされた。

 あまりにも唐突で、階段を上がってくる足音が聞こえなかった。扉の前に何者かが現れたようである。今は彼が自分を守る手立てを持っていない。今来ているのが、暗殺者なら終わりだろう。今ここには、彼しかいなかったのだから。

 軽く扉を叩く音に、ターラント男爵はホッとして応えを返す。マナーに則ったノックだった。

 もっとも、こんな早朝に執務室に、押しかけてくること自体、マナー違反である。本来ならば、先駆けとして予約してやってくるのが、常識である。

 ターラント男爵は、豪華な机の引き出しを開けて、其処に隠してある、小石に手を掛けた。もしもの時には、この石を投げつけて、逃走するつもりである。

「こんなに早く申し訳ありません。ヘクター・リントンです。昨日の事件に関してお話を為たい」

 突然の訪問者は、デニム家の筆頭執事だった。普段なら、こんなに唐突な訪問を為てくるような人物ではない。デニム家の執事には、貴族階級の者にしか知らされていない顔がある。彼には私兵団の情報部門の長というもう一つの顔がある。

 どちらかというと、ターラント男爵が知り得たこと意外のことを知っているだろう。その情報を此方に寄越すつもりなのか。責任を問うために来たのか。

「鍵は掛けておりません。今、使用人が不在でして、たいしたお持て成しは出来ませんが。どうぞお入りください」

 ターラント男爵は、そう言いながら、下半身から悪寒が這い上ってくるように感じる。本当のことを言うと、今クリスがここに居ないのが悔やまれる。正直怖い。

 はたして扉を開けた、ヘクター・リントンは執事服を見事なほど着こなしている。違和感があるとすれば帯剣していた。

 ターラント男爵の視線は、ヘクター・リントンの剣に釘付けとなった。あれは飾りでは無いのである。デニム家に敵対する人間の、此れまで何人もの血を吸っている。

「どうですか。密猟者を捕らえることが出来そうですか」

 挨拶も無しに、ヘクター・リントンが質問してくる。貴族階級の者に対する質問の仕方ではない。目下の者に対する態度だった。

 普段なら、こう言った高圧的な態度を、ヘクター・リントンは見せたことがない。執事ではなく、もう一つの顔を出しているのだ。

「今、捕縛を命じた者が向かっております。その一方をお待ちいただきたく存じます」

と、ターラント男爵は言った。背中を冷や汗が流れてゆくのが解る。

「……。たぶん逃げ出してしまっているでしょう。彼らの家族は流石に動いていないでしょうから、確保して置いてください。くれぐれも自警団に介入させないようにしてくださいね」

「でも、何故貴方が直々に動いているのですか。当家のメイドだからといって、其程重要な使用人でもないでしょう」






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