汚い大人
早朝ギルドギルドの最上階では、ターラント男爵が頭を悩ませていた。案の定、三人の密猟者は姿をくらましてしまっていた。其れも家族を残してである。
「見つかったのが、ナーラダのリコというのは最悪だ。金で片付けることも出来ないだろうな」
ターラント男爵は、誰に言うことも無く呟いた。上手くすると、狩りの流れで、うっかり貴族の狩猟場に入ってしまったという言い訳も、聞かないだろう。
ナーラダのリコの証言を信じるなら、明らかな法律違反である。狩猟ギルドの役割の中には、狩人達に法律を守らせる事で、支配者階級の横暴から守る役割があるのだ。こういった事が、公になればギルドの意味合いがなくなってしまう。自分達のことを守ってくれないような、ギルドの言うことを会員達は聞かないだろう。
厄介なことに、三人とも家族持ちの癖に、危ない橋を渡っていたのだ。ギルドの会員が、法律を破っていたことも問題だけれど。口封じのために、ナーラダのリコを殺そうとしたことも、頭の痛い問題なのだ。
あまりにも相手が悪すぎる。ハーケンの娘で、今はデニム家のメイドを遣っている娘だ。しかも、本人は貴族並みに読み書きが出来る。そうなると木賃と問題を解決して見せなければ、どんなことになるか解らない。
此れまでも、うっかり貴族の狩猟場に入ってしまうことはあった。そのたびに、担当の人間に賄賂を渡すことで、大事にならないように片付けていたのである。其れが、今回は間違いなく上の方まで報告が上がってしまう。
そうなったら、此れまで緩く納めていたことが、そうは行かなくなるだろう。何しろ文字すら読めないような、会員を納得させて、貴族連中を満足させる為に。犯人を捕らえて、罰を与えたことを知らせなければいけないのだ。
密猟者達は、間違いなく逃げ出していると思うが、捕まえられないとなると、厄介なことになる。捕まえられたとしても、どう裁いたら良いか、全く前例がないのだ。
其れでなくとも、ハーケンの娘と言うだけで、ターラント男爵には頭の痛いことだ。彼の知らないところで、ハーケンが落とし前を付けてくれれば、助かるのだけれど。
今はデニム家の領主夫婦は視察中で、ハーケンも一緒らしいから。彼らが留守の間に片付けてしまわなければならない。
此れまでターラント男爵は、大きな問題になる前に、無かったことにすることで、ギルドを守っていたのである。何時ものように、有耶無耶には出来そうに無いのだ。
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