そして次の日 11
「御嬢並びに御嬢様は、鍛錬場に行かれるんですかい」
「何時もの通り鍛錬場で、軽く汗を流すつもりだけれど」
「なら、少しばかり待っててくださいな。急いでノルマを終わらせますんで、また勝負しましょう」
ヤンキー顔のジャックが、笑いながら言ってくる。
「野郎ども、それで良いな。おくれた奴、片付け当番な」
そう言うと、真っ先にダッシュする。他の連中は、口々に文句をぶちまけながら、奴を追いかけ始める。
「それじゃ鍛錬場で会いましょう」
一番最後までいた、レイが良い笑顔を浮かべて走り出した。皮鎧とは言っても、具足を着けてのダッシュである。いくら何でも無茶が過ぎる。
「無理してぶっ倒れるんじゃないよ」
あたしは一声掛けて、マリアの方に視線を向ける。既に彼女は呼吸を整えて、立ち上がり掛けている。大変やる気満々みたいである。
マリアは頑張って、身体を鍛える必要が無い。なんと言っても、彼女こそ伯爵令嬢なのだから。剣を持って戦うなんて事に成るなら、其れは終わりの時に違いないのだから。
それでも、乙女ゲームさくらいろのきみに・・・のシナリオなら、悪役令嬢マリア・ド・デニムは、結構戦うシーンがあったから、身体を鍛えておいた方が、良いのかも知れないのだけれど。
そういった荒事は、あたしが引き受けるつもりだし。もしもに備えて、逃げ出せる程度の体力を付けておいた方が良い。そう言う意味では、弓よりは体術の方を学んで欲しいと、思っている。
そんなことを言ったのは失敗だった。マリアの奴は弓の撃ち方を習いたがった。今の処、剛弓はとてもじゃないけど引くことが出来ないから、今は短弓を撃つ練習をして満足して貰っている。
因みに、マリアはあまり運動神経の方は良くなかった。前世の体育の授業を基準にするなら、もう少し頑張りましょうの判子を押される感じだ。
双子なのに、こっちの方の才能は悲しいほど少なかった。令嬢としてはごく普通だとは思うけれど。今後起こるイベントのことを考えると、彼女では厳しいかも知れない。
どのみちあたしは、彼女の影武者だし。その辺りは、カバーすれば良いかな。
読んでくれてありがとう。




