サロンにて 4
ブックマークありがとう。
これから、親猫と子猫の冒険です。
あたしの対面の席に、アリス・ド・デニム伯爵夫人が座っている。赤い部屋着のワンピースは、栗色の髪とその白い肌の色によく似合っている。顔色は良く、心なしか赤みが差している。初めてあった時より、親しみを感じさせる表情をしている。心なしかお母さんの顔になっている気がする。
時間が経つに従って、あたしはデニム伯爵夫人に対して好意を感じだしている。リコのからだが感じているのか、この女性がものすごくコミュニケーション能力があるからなのか、解らなかったけれど。心の中から、笑いがこみ上げてくるのを止めることが出来ない。
「奥様」
部屋の隅で待機していた、侍女さんが声を掛けてくる。遠くの教会の鐘の音が聞こえる。午後3時を過ぎていることが解る。
デニム伯爵夫人は、少し残念そうな表情を一瞬だけ作った。すぐにほほえみを浮かべる。
「救援部隊の第二陣と、ともにマリアを向かわせます。貴方はマリアの影として同行なさい。くれぐれも、あの子のことよろしくね」
「ありがとうございます」
あたしは嬉しさに、顔が赤くなることを感じながら、立ち上がり頭を下げた。次の瞬間、遣っちまったことに気がついた。つい、地が出てしまう。
デニム伯爵夫人はそんな不作法なあたしを見て、クスクス笑う。貴婦人の笑顔と言うより、母親が娘の不作法を笑って許しているような笑顔だった。
「気持ちは解るけど、他の方の前では気を付けてね」
その言葉で、あたしの顔に熱が上がってくる。これって恥ずかしいことなのかな。これからは気を付けよう。
特に貴族の中では、頭を下げる文化は無い。あたしの前世の常識とは異なるものが色々あるのだ。最近は、旨く使い分けてきたけれど、だいぶ余裕が無くなってきているらしく。冷静ではいられなくなっているみたい。
「出発は明日の早朝になります。それに併せて、準備をなさい。ついでに、ナーラダのハーケンには後でこちらに来るように伝えて」
「ジェシカ、マリアを私の名代として、向かわせることにしたと伝えなさい。隣の鼠の相手は私がすることにしたとね」
デニム伯爵夫人がそんなことを言っているけど、今の私にはそれどころでは無かった。急いで出かける用意をしなければいけない。彼女の気が変わらないうちに、この部屋を辞してしまいたかった。
「では、失礼します」
あたしは、挨拶もそこそこに部屋を辞する。不作法だったかも知れなかったけれど、そんなこと気にしてはいられない。




