そして次の日 9
「ねえ。双子だからって、不吉の兆候なんて、そんなこと無いわよね。だったら、堂々とデニム家の娘ですって、言ったら良いのにと思うのよ」
マリアが立ち上がろうとするのに、あたしが手を貸そうとした瞬間を狙ったように言ってきた。二人っきりになるために、あたしの鍛錬に出てきたのかも知れない。
「其れは判んないわよ。そう言う迷信を信じちゃう人は結構居るだろうしね。双子は獣の生まれ変わりだって、言われているんでしょう」
「だからメイドなんかに甘んじているの。私と同じになれば、側に護衛を付けることも出来るから、昨日みたいに危ない思いを為なくても良いのでは無くて」
「確かにあれは怖かったけれど。本当に酷い目に遭ったのは、彼奴らの方だしね」
実際、酷い目に遭っているのは、彼奴らの方だ。矢が刺さってしまった上に、この辺りで狩りの仕事は出来なくなった。それだけでも十分な罰かも知れないのだ。
勿論あたし以外に対しても、同じ事を遣っていたら、その程度では済まないだろう。捜査や逮捕なんて事、あたしは遣りたくないのだ。前世だと、そういった事は警察がやっていたはずで、ここだと自警団が其れを遣っているのだけれど。何分文字も読めないような住人が、思い込みと、集団心理で物事を裁いているから、あまり良い結果をもたらさない。
今回、あたしは猟師ギルドに訴えることを為たから、ギルドにとって都合の良い収拾をするに違いないけれど、自警団にやらせるよりはましだろう。父ちゃんの小隊に任せるのは、更に悪い結果を生むかも知れない。誰かが落とし前を付けるなんて言う物騒なことを言っていたし。血を見ずには終わらないだろうから。
皆あたしのことになると、目の色が変わるのだ。私刑を持って、落とし前とするかも知れない。私兵団は間違いなく暴力集団なのである。其処に正義が有るとなったら、嬉々として何をやり出すか解らないのだ。
なんか同じことを言い続けている気がする。皆今回のことは激おこ案件なのかも知れないけれど、遣られたあたしが、宥めているなんて、何だか不思議な気がする。
小隊の連中が、あたしの側まで近付いてくる。あの独特の掛け声は、相変わらず五月蠅い。ちらりと視線を向けると、相変わらず表情が嫌らしい。十三歳の女の子に向けるような顔じゃ無い。




