そして次の日
「御嬢様朝ですよ」
あたしは未だに天幕突きのベッドからでられない、マリア・ド・デニム伯爵令嬢を起き出すように促した。正直あたしも寝ていたいのだけれど、一応メイドとしては寝ているわけには行かない。朝に必要なことを遣って、御嬢様を起こして、何時ものように軽く運動を為なければならない。
死ぬ少し前には、今頃はごろごろしていたけれど、十三歳の頃は学校に行っていたから、起き出してお母さんに忘れ物が無いか確認されていた。今思い出してみると、あの頃が一番幸せだったかも知れない。
既に暖炉に火を入れておいたから、寒くは無いだろう。この怠惰な生活が為たければ、伯爵令嬢になれば良いのだけれど。そうなれば、父ちゃんとの関係が微妙になってしまう。
この半年の間、奥様を見るととても大変な気がするのだ。何しろ自由な時間は、あたしより無い気がする。彼女には休みらしい休みが無いのだ。貴族だから、贅沢な生活が出来るのだけれど、仕事がとんでもなくあるのだ。
あたしは勘弁かな。やっぱり自分の知らない人のために、自分の身を削っていきたいとは思えない。これだけ一生懸命、頑張っていても決して幸せになっているようには見えないしね。
熟々、マリアを助けて良かった。間違っても、彼女に入れ替わることは無いのだから。何で、乙女ゲームさくらいろのきみに・・・のあたしは、マリアに入れ替わろうとしたのだろう。其処の処は、ゲームの中では描かれていない。ほんとに謎なのだ。
「今日も同じように鍛錬するの。貴方、昨日は大変だったのでしょう。今日はゆっくりでも良いのではないの」
確かに未だ日が上がってきていないから、彼女に言わせれば此れって、早すぎるのだろう。最近は慣れてきているのかなとは思っていたのだけれど。どうやら昨日は眠れなかったらしい。もしかして心配してくれたのかも知れない。
「御嬢様、もしかして心配してくれたのですか」
「貴方はドッペルゲンガーだから、心配していなかったですわ」
御嬢様は本当にぐずぐずしながら、高級寝具から起き出す。どうやら自分で、寝間着を着たらしく。ボタンの掛け違いがあった。
「あの……。御嬢様、寝間着を着るのを、手伝って貰わなかったのですか」
「私の手伝いは、貴方の仕事でしょう。今後は気を付けなさいね。私が困ってしまうから」
と、御嬢様が言ってきた。何だか不器用な話し方だな。いわゆるツンデレか。
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