サロンにて 3
親子の会話とは言えないかもですが。
ヘクター・リントンが話し終えて、部屋を辞するのと入れ替わるようにして、私の元へナーラダのリコがやって来た。その顔は何か必死な様子で、重要なお願いがあると言っている。ナーラダ村のことだろう。
リコは部屋に入るなり、コーツイして見せて私を仰ぎ見る。その姿は、昨日今日学んだような姿勢では無いように見える。その微動だにしない姿勢は、それなりに鍛えられていることが伺わされる。
私の頬が緩む。お父様に奪われた娘が帰ってきたのだ。
「何か話があるのですか?」
彼女が話しやすいように、呼び水となる言葉を掛ける。話の内容は、だいたい察しが付いているけれど、その言葉を聴きたかった。
「お願いがあってきました」
私の瞳の色と同じ、栗色の瞳止めが合う。少しつり上がっている目には、強い思いが感じられる。良い子に育っている。
ウエルテス・ハーケンがなんと言おうと、私の娘なのだから取り戻す。しかも平民としての教育のみのはずが、かなり高い教養を身につけている。貴族としても遣っていけるほど、其れは高い。彼が何を考えて育てたのか、後で尋問しなければいけないと、心の中に書き留める。
「其れはナーラダ村のことですか?」
「はい。私は村のことが心配で、今どうなってしまっているのか、知りたいし。出来れば、助けに行きたい。契約の内容では、お嬢様の側を離れることが出来ないことは、重々承知しておりますが、どうかお願いしようかと思いまして」
リコは立ったままそこまで一気に言った。流石に他のことまでは、気に止めることも出来ないのだろう。私は彼女を座らせることにする。もう少し話がしたい。其れもゆっくりと、貴族的な考えからも、言葉は悪いけれど、使える人材かと言うことを見極めたい。
「とにかく座りなさい。深呼吸をして、もし良ければお茶でもいかが。ゆっくりと貴方と話がしたいわ」
私は、いつもの定位置に提起している、ジェシカに合図を送る。彼女は小さくうなずくと、ワゴンを押してこちらにやってくる。手慣れた仕草で、ヘクターの飲んでいたカップを、ワゴンに似せて、別のカップをテーブルに置いた。
「奥様は宜しいでしょうか?」
「今は宜しくてよ」
彼女はその言葉を聴くと、リコのカップに作法道理に紅茶を入れる。微笑んで、小さな皿をオテーブルに置いた。クッキーが二枚のっている。
私に中で、ちょっとした提案がこのとき浮かんだ。マリアを救援部隊の第二陣に同行させるのはどうだろうか。そうすれば、リコの願いを叶えることも出来るし。私は鼠の狩りが出来る。




