良く似た娘。 7
ヘクター・リントンの執務室は二階の一郭にある。実は隣は、良く奥様がお使いになるサロンの隣だ。手狭ではあるが、下働きを二人使いながら、執事としての業務を執り行わせて貰っている。それに加えて、奥様の目と耳の役割もあるので、彼は忙しい。
ヘクター・リントンは、執事としても間者の頭領としてもかなり優秀で、少なくとも領都デイロウのことなら、かなり把握している。それでも、全てを調査できる物でも無く。いわば定点観測しているような物で、如何しても網の目をする抜けてしまうことがあるのである。
ナーラダのリコは、ヘクター・リントンの先導で執務室にやって来た。だいぶ珍しいのか、彼女は本棚に置かれている、紙の束を束ねた資料の背表紙を眺めている。ここにあるすべての資料集は、デニム家にまつわる細々とした物事が書き留められている。
こういった事に興味を引かれるところは、もしかすると奥様より領主としての適性があるのかも知れないと、私に期待させる物があった。
「早速ですが、いったい何があったのか、なるべく詳細を聞かせてくれませんか」
ヘクター・リントンは、手ずからティーセットを取り出して、奥様にのみお出しする紅茶葉を用意する。この娘には、この良いお茶を飲む資格がある。願わくば、マリア・ド・デニム伯爵令嬢と共に、このデニム家を支える支柱の一本になって欲しいと、心の中で願うのだった。
「言っておくけど、私は貴族の狩猟場所で狩りはしていないからね。たとえ獲物が濃いからと言って、ギルドに決められた決まり事は守っているからね」
「其れは判っておりますよ。貴方は其処まで愚かでは無い。只、今回は少々運が悪かったのでしょう」
如何しても、貴族の狩猟場所は手厚く管理されている関係上、如何しても野生動物の絶対数が多くなる。何しろ、貴族の狩りは基本的には娯楽なのである。だから滅多に狩られることが無いため、其処の場所に生息する動物は大きくなる。
野生動物だって、馬鹿では無いので、比較的安全な場所があれば、其処に逃げ込むことすらある。実入りの少ない猟師は、一般人は立ち入り禁止となっている場所でも、入って行ってしまう。其れが罪であったとしても、見つからなければなんの問題も無かったからである。
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