良く似た娘。 4
ヘクター・リントンは、ナーラダのリコのコーツイを眺めながら、実に勿体ないことだと思う。彼女は驚くほど、多彩な能力を持っていた。今の状態でも、伯爵令嬢として通用する。
何しろ少なくとも、村の長の手伝いが出来るほど、文字も計算も出来るのである。その上、土嚢袋を使った土木工事の提案は見事な物だった。其れが、メイドのような使用人で満足している。
双子だからといって、簡単に捨ててしまったことは、実に勿体ないことだと思う。今、彼女が令嬢としていたのなら、奥様の名代として執政を執り行うことが出来たかも知れない。それだけでは無い、若い頃の奥様のように、前線に居る兵士の指揮を執ることが、出来たかも知れないのだ。
今、アリス・ド・デニム伯爵夫人の双肩に、この国の将来がのしかかっているにもかからわず。あまたある貴族達に足を引っ張られている状態。これほど辛いことは無い。現状では、彼女の家臣団には、情けないことに肩代わりできる者が居なかった。
一執事の立場では、アリス・ド・デニム伯爵夫人の重荷を軽減することが出来ない。これ以上、宝物が無くならないことを願う。
このマルーン地方の執政は、普通の者には及びも付かないほど孤独で過酷な物であり。幼かった頃から知っている、ヘクター・リントンには心配せずには居られない。
彼女は決して、強い人では無いのである。此れまで失う物があまりにも多すぎた。これ以上、失ったなら正気を保つことが出来ないかも知れない。そうなったら、デニム家は終わりである。
アリス・ド・デニム伯爵夫人の、人となりによってのみ、民心をつなぎ止めている状態は、決して安心できる状態では無い。彼女が折れてしまうと、簡単に隣国に押しつぶされてしまうだろう。
そう言う意味で、アリス・ド・デニム伯爵夫人のカリスマは重要で、政の中心となって居るのだ。だけれど、逆に言うと彼女を失ったときには、替えが効かないのであれる。
少なくとも、乗っ取りを画策している、デイモン・デニム伯爵などに主導権を奪われたなら、あっという間に隣国に押しつぶされるだろう。彼には、彼女に匹敵するカリスマは無いのだから。
途端に炎上して、各地で反乱が起こるだろう。何者かに、氾濫が起こるように画策されていることを、彼は把握している。実際半年前は、かなり危険な状態だった。だからこそ、やむを得ず武力を使ったのである。
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