良く似た娘。 3
ヘクター・リントンは、何時もの歩調で執務室を出ると。玄関のある中央ホールへ向かう。
ナーラダのリコは、新米メイドである。だから、小隊と別れた後で、使用人用の出入り口を使うはずで、其処に向かえば確実に彼女を捕まえることが出来る。そうすれば、誰に知られることも無く。話を聞くことが出来るのだけれど、あえて正面玄関で声を掛けることに為た。
本来ならば、ナーラダのリコはこの玄関を使う権利を持っている。それだけでは無いけれど、今回の厄介ごとを重要視していることを、小隊の連中にも、知らせておかなければならないと思ったのである。勝手に戦力を動かすことは、決して褒められたことでは無いのだ。
ナーラダのリコを心配しての行動なので、奥様は決して咎めたりはしないだろうが。そういった、勝手な行動をするようだと、規律に乱れが生じるようになってしまう。そういった事は、隊長の仕事ではあるのだが、今は事情のわかる自分が、その役目を担った方が良いだろうとの判断である。
ヘクター・リントンが正面玄関まで出たときには、馬番が連中から馬を回収し終えたばかりだった。取りあえず小隊の連中は、全員其処に居り。ナーラダのリコのもいた。思惑通りに全員を捕獲することが出来たために、苦い笑みが頬に浮かぶ。
全員が信じられない者を目撃したような顔を為た。奥様の居ないこの屋敷において、最も位の高い職能の持ち主が、正面玄関から出てきたからである。
普段なら、彼もこのように正面玄関を使うことは無い。小なりとはいえ、爵位を持っていたとしても、執事も使用人には違いが無かったからである。ただ、非常時にはもう一つの顔を持っている、ヘクター・リントンである。
ここに居る全員が、ヘクター・リントンに対して、軍隊式の敬礼を捧げた。因みに、うっかりナーラダのリコも同じ敬礼を為てしまう。
「貴方はコーツイの方が宜しいでしょう。貴方は兵隊では無いのですよ」
ヘクター・リントンは、吹き出しそうに態ながら、ナーラダのリコに話しかけた。内心、そういえば貴方の御母様もそうやって誰に対しても、敬礼を為ていた。
「御免なさい」
と、謝ると、急いで綺麗なコーツイに切り替える。その姿も、まるで貴族の御令嬢のようだった。
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