良く似た娘。 2
屋敷の庭先まで来た、ハーケン小隊はまるでお姫様を護衛する騎士のように、隊列を整えて下馬する。まあ、奴らは馬にも乗れる兵士でしか無いのだけれど。それでも、ヘクター・リントンには懐かしい光景に見えた。
今では、奥様が少数の手勢を引き連れて、支配地域で起こった揉め事を、平らげに行っていたことを知るものは少ない。そのたびに、先代様に叱られていたことも。
アリス・ド・デニム伯爵令嬢という御方は、とんでもないじゃじゃ馬だったのである。だから、民衆に敬愛されている。そして、女傑だとか虎とか噂されているのだ。
其れも国を守る要となる支配地域を任されている、貴族と為ては手強いと思われていた方が都合が良かった。実際の彼女を、知っている者にとっては、異議を唱えたい物ではあるのだけれど。
馬番が走り寄ってくるのが見えたところで、ヘクターは歩みを進めた。自分の執務室に居たのでは、報告を聞くのが遅れるだろう。もしかすると、真面な報告が上がってこないかも知れない。
間者から報告があるとは言っても、其れは間者の観察による物で、実際に起こった事件に対して、その場に居た者で無ければ、知り得ないこともある。
記憶が新しい内に、ナーラダのリコから報告を受けたいと思うのだ。たんなる不幸な事件なら良いのだけれど。彼女が、デニムの娘だと知った者の企みならば、ほっては措けないことである。
全く旦那様には、困った物だと思う。あの御仁は、デニム家がどのような立場に立たされているのか、理解していないのだ。
マリア様が誘拐された時も、本当に肝を冷やされた。其れが、失っていた子供を見付けることが出来て。奥様は、心の痛みが癒やされているのである。其れを失わせるわけにはいかない。
今となっては、マリア様もナーラダのリコも、アリス・ド・デニム伯爵夫人にとって、大事な宝物なのだから。
ヘクター・リントンは、マリア様を誘拐されて、半狂乱になってしまった、奥様の姿をもう二度と見たくは無かった。
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