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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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41/1216

サロンにて 2

「失礼いたします、おくさま」

 ジェシカ・ハウスマンは、主の冷え切ったティーカップを手にするとと、ポットから湯を注ぎ、暖めながらティーポットに新しい紅茶を入れて、二人分のお湯を注ぐ。其れは美しい所作であった。何度む何度も反復して身につけた物は美しい。

 二人分の紅茶は、その香りの良さと相まって、特に疲れている奥様荷の手元にそっと置いた。勿論、リントン様に後でお小言は嫌なので、きちんとした所作を心がける。

「では失礼します」

 ジェシカはティーセットの乗せられた、ワゴンを押して定位置に戻って行く。侍女は主人の話を聞いていたとしても、聴いては居ないように振る舞う。其れが正しい従者のあり方と、先輩に教えられている。ましてや、今ここには厳しい執事様がいるのだから。


「ナーラダのリコさんの様子はいかがでしたか?」

 私から最も聞きたいことまずは仕向ける。

「田舎の子供にしては、たいした者です。少なくとも貴族の令嬢の真似事くらいは出来るでしょう。しかも、読み書きや計算も出来る。計算に至っては、三桁の計算を何も道具を使わずに遣って見せましたよ」

 ヘクター・リントンは、実に楽しそうに笑った。

「あいつはどんな教育をしていたのか、聞いてみたいものですな。まるで天才です」

「其れは良かったわ」

「まあ後は、お嬢様の癖などを真似することが出来れば、問題なく影仕事も出来るでしょう。何しろまるで同じ鋳型で作られて様にそっくりですから」

「ただ、実践に支えるようになるには、まだ時間は必要かも知れませんがね」

 ヘクターは、そこまで言うと紅茶に口を浸けた。本題はこれからだと言うことを、私は察しなければならなかった。

「これは頭の痛いことでございますが、クーデイル王国の鼠が市中に入り込んできたようです。放っておくと少々厄介なことになるかも知れません」

「どれ程ですの?」

「十人は下らないかと思われます」

 この言葉を聞いて、私は救援部隊と一緒に向かうことを諦めた。救援に領主側の人間がいるのと、居ないのでは民衆の感じ方が変わってくる。そのためにも、第二陣の救援部隊とともに、現地に行こうとは考えていたのだが、敵国の部隊が入ってきているとなると、領都を空けるわけにも行かない。

 これはクーデイル王国による威力偵察と言ったところだろう。こちらの弱みを見せれば、其処につけ込んでくる。

 鼠退治の戦力は、厳しいものになっている。水害の対応にほとんどの兵を、向かわせなければならなかった。領都防衛に遺している兵力だけでは、厳しいことになる。

 デニム伯爵領は、クーデイル王国と国境線が接している。絶えず小競り合いをしているが、幸いにも今まで後れを取ったことは無い。

 もしかすると、マリアの誘拐も奴らの揺さぶりなのかも知れなかった。一連の流れに、今回の嵐である。

「鼠退治には私も指揮を執ります。急いで片付けて、しまいましょう」

「御心のままに」





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