マーシャの私設保育所 9
「え、そっ、そんなこと考えた事もないわ。おばさん変なこと言わないでよ」
あたしは思わず言い返していた。そばにレイが座っているのに、一寸恥ずかしい。頬が暖かくなる。
レイはあたしの斜迎えの椅子に座って、大人しく全員が食卓に着くのを待っている。そんなところは、元王子様っぽい綺麗な姿勢だった。他の兵隊なら、既に肉に食らいついて居るだろう。食事は全員そろって、今日の糧に感謝の祈りを捧げるのが、庶民も貴族も決まりなのである。
レイが思わず声を上げた、あたしの方を見詰めてくる。青い瞳がとても綺麗だと思う。マーシャおばさんの所為で、一寸意識してしまった。頬が赤くなるのを感じる。
「如何したんだい御嬢。顔が赤いぞ」
と、レイが言ってくる。今の処彼は、あたしのことを女だと思っていない。年下の女の子でしか無い。まして、自分の所の隊長の娘である。変な目で見たらとんでもないことになる。
もしかすると、あたしの方が意識している。だって、レイは乙女ゲームさくらいろのきみに・・・の、ゲームクリアすると攻略できる攻略対象なのだから。そこに居るだけで、意識しないわけには行かない存在なのだ。
「ララも来たよ」
どたどたと足音を立てて、小さな女の子が走ってきた。彼女はキャキャ言いながら、リタを配下のように従えてやってくる。来ている物は、古着屋で買った物だったけれど。十分可愛らしい物だ。
内心あたしはホッとしながら、ララを笑顔で迎える。何時も元気で、甘い香りをさせている彼女は、マーシャの私設保育所のアイドルなのである。昼の部に通ってくる子達の中には、何時もララにひっていて居るような子も居たりするらしい。
何だか、将来が怖い感じがする子だった。何しろ、レイも笑顔を向けている。あんな笑顔をあたしに向けてくれたこと無いな。
この暖かな環境が、何時までも続けば良いとあたしは、心の底から思う。ここに通う子達にとって、ここは間違いなく家なのだ。
前世のあたしの家が、こんな環境だったら、道を踏み外さないで済んだかも知れない。この場所は守っていかなければと思うのだ。何となく、ナーラダ村を思い出す。今は未だ、洪水が起こった以前のようには戻っていないけれど。早く戻って欲しいとも思う。
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