サロンにて
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食事が終わって、少しけだるい時間帯。アリス・ド・デニム伯爵夫人は、手の込んだ丸テーブルで食後の紅茶を飲みながら、ナーラダ村が在るマルーン地方の地図を、睨み付けている。赤い部屋着としているワンピースを着ている。手元には、安価なメモ用紙があり。時折はねペンでなにやら書き込んでは、ため息をついている。
部屋は使用人が仕事をしている庭を、見渡すことの出来る二階の貴賓室である。高価なガラス窓を使い、部屋に居ながらにして、庭を見渡すことが出来る。最も良い場所だった。
部屋の扉の側には、ティーセットを乗せたワゴンとともに、侍女のジェシカ・ハウスマンが立っている。普段は、隣の小さな使用人待期場所に待っているのだが、今はお茶を頼んでいるので、私が満足するまで待っている。その仕事はメイドでも良いのだけれど、機密に関わる地図を見るために、そのことを理解している彼女にお願いしたのである。
彼女は赤毛をおかっぱに切りそろえ、切れ長に瞳の色は黒。いつも笑顔を絶やさないお嬢さんでは在るけれど、護衛としての能力も併せ持っている。元々は騎士階級から、男爵に成り上がったフルニール・ド・ハウスマンの五女で、護衛としても優秀だった。見た目も良く、便利だったので使っている。
軽いノックの音がして、低い男性の声がする。
「奥様お時間を頂いても宜しいでしょうか?」
「宜しくてよ」
私が承諾の声を上げると、ジェシカが扉の鍵を開けてそっと開く。其処には執事のヘクター・リントンが立っていた。ナーラダのリコに此れからのことについての、説明を命じておいたので、その報告だろう。あまり期待はしていないが、最低限のことは学んで貰わなければ、色々と不都合なことになってしまう。もっとも、今回のことは私の我が儘では有るので、無理難題だと言うことは、私だって解っている。
所詮は平民の教育しか受けていない娘が、いきなり貴族の振りをしろと言っても無理な話なのである。母親として、あの子を側には今のところ置けない。それならば、マリアの影としていて貰うのはどうかと考えたのである。影ならば、夫やそのほかの人間に対して、理解させることが出来るかも知れない。そうすれば、私の下にあの子を置くことが出来る。
ヘクター・リントンが、足音を全く立てることも無く入ってくる。黒野執事服がよく似合う彼は、隙の無い姿勢を崩すこと無く、挨拶をすると丸テーブルの側までやってくる。視線は、地図の上をなぞると、私の左隣に束付いてくる。
「ナーラダのリコさんと面接を行って参りました。その報告をしたいのですが、宜しいでしょうか?」
ヘクターは立ったまま告げてくる。私は、彼に座るように指示をする。
「では、失礼いたします」
彼はそう答えると、テーブルの一郭の置かれていた椅子に座った。
「お茶を入れてあげて」
私が、其れを指示するとワゴンを押して彼女が、ティーセットをこちらに近づけてくる。お茶の香りが私を包む。




