マーシャの私設保育所 3
あたしの足下を照らすランタンの灯りが、実はとても邪魔である。気を遣って、レイの奴が、あたしの足下を照らしてくれているのだけれど。本当は余計なお世話なのだ。
だって、この灯りのお陰で、明るいところまでしか見えなくなっていたから。遠くに居る危険な、人間の存在に気付くことが、出来そうに無い。それでも護衛宜しく、革の胴着を着込んだレイが居るので、襲ってくる奴も居ないだろうけれど。もしも、襲ってくるようなら、相当いかれているって事になるのだけれど。
「ねえ。なんだったら帰ってくれても良いんだよ。今帰れば、寄宿舎の晩御飯に間に合うからさ」
街灯の無い暗い小道を、あたしは足早に歩きながらレイに言った。今なら、晩御飯に間に合う時間帯なのだ。このまま、マーシャおばさんの家に向かえば、間違いなく寄宿舎の食事にはありつくことが出来なくなる。
そうなると、自前で食事に有り付かなければいけないのだ。帰りがけには、食堂的な物はあるのだけれども、其れもあまり遅くなれば閉店してしまう。それに、本当なら遣らなければいけない業務をほっぽって、あたしに付き合っているのだから。早く帰らせて遣んなくちゃ行けないような気がする。
「心配してくれてるの。今更多少遅くなったからって、報告書を書く事に変わりないから、なんの問題にもならないよ。お嬢一人で行かせたなんて、隊長に知られることの方が恐ろしいよ」
「そっか」
「何しろこんなに可愛い御嬢と夜の散歩がきるなんて、僥倖な事だと思うからね」
あたしは思わず二度見してしまった。其処には、まるで王子様みたいないい顔を為た金髪碧眼の横顔がある。流石にシークレットキャラクターだけのことはある。こんな言葉をするりと言ってのける。只、相手が十三歳の子供だって言うのが、不味い気がするのだけど。
「わあ、嬉しい。そんなこと言われたら、本気に為ちゃうじゃ無い」
思わずあたしは、柄にも無いことに一寸顔が赤くなった。一寸だけ嬉しくなってしまう。此れはもしかして、乙女ゲームさくらいろのきみに・・・の方のあたしは、この人が好きだったのだろうか。だから我儘言って、この人を王都の護衛に無理遣りねじ込んでいた。真逆ね。
「今のは内緒に為ておいて。でないと隊長にひねり殺される」
突然普段の兵隊らしい顔に戻って、あたしに身を寄せてくる。ここまで近付くと、身長差を感じる。あたしの背は此奴の方くらいしか無いのだ。
「御嬢。後を付いてきている奴がいるようだけど。蹴散らしておこうか」
レイは小声で、あたしに話しかけてくる。ようやく気付いたらしい。
この辺りに巣くう破落戸だろう。たいした相手ではない。あたしが一人で歩いていたら、声を掛けてきただろう。そして泣いて帰ることになるは、彼奴の方になる。
「あと少しで、マーシャおばさんの家に着くから。ほっといても良いんじゃ無いかな」
マーシャおばさんの住処で、何か事を起こそう物なら、間違いなくボコボコにされる。領都に住んでいるなら、この付近ではどんな悪も品行方正な振りをすることになるのだ。
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