お土産はウサギ肉 25
お土産は既に持って行って貰っているとは言え。今月分の養育費用を、マーシャおばさんに持っていかないと、少しばかり困った事になってしまう。彼女だって、慈善事業を為ているわけじゃ無い。定期的なお金が無ければ、リタの面倒を見て貰えなくなってしまう。
マーシャは、先の戦争未亡人だ。自分の生活をまかなう仕事として、子供を預かる仕事を為ていた。リタのお母さんのように、自分の身体を売り物に為ないでいられるだけましなのだ。
「じゃあ宜しくお願いしますね」
あたしは、正式な作法通りコーツイを為てみせる。体感が良いので、中々美しいらしい。あたしは自分のコーツイ姿を見たことがないので、なんとも言えないのだけれど。今の格好だと、それほど綺麗では無いだろう。
だって、今のあたしは胴着にズボンを着ていたから、男の挨拶に仕方が良かったかも知れない。
ターラント男爵は驚いたのか、あたしの姿を凝視してきた。
「君はもしかして、デニム伯爵家の人間じゃ無いのか」
扉を閉めようとしたときに、ターラント男爵が声を掛けてきた。今までで、一番大きな声だった。
「そんなわけ無いでしょう。他人のそら似ですよ」
後から付いて来たレイが、扉を閉めながらおどけた表情を作っている。そして、後ろ手に扉を閉めた。
「本当にあれで良かったのか。絶対に、御嬢を殺そうとした連中は、見つからないだろう。僕達なら、なんとしても見付けるだろうから、落とし前を付けることが出来るだろう」
「良いんだよ。あたしは怪我してないし、怪我したのは彼奴らの方だしね」
そんなことより、日が落ちる前にマーシャおばさんの家に行きたい。そうしないと、困った事になってしまう。リタの面倒を見て貰っている、マーシャおばさんに断られたら、彼女の代わりの人を見付けるのに、大変な時間が掛かるのだ。。
何しろ新人メイドでしか無いあたしが、リタの面倒を見ながら仕事を続けることは出来ない。この領都には、孤児院みたいな物は無い。そういった福祉施設の発想自体ありはしないから、守ってくれる家族が居ない者は、最悪奴隷商人によって、売られることになる。
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