お土産はウサギ肉 23
「以前から頭が良いとは思っていたけれど、かなり使えるみたいだね。見た目が御嬢様に似ているだけで無く。中身も貴族並みとは恐れ入る。貴族でもこの手に引っかかる奴も居るから、相当使えるみたいだね」
ターラント男爵は、実に楽しそうに笑いながら言った。もしかして、この人相当腹黒なのかな。
今度は新しい紙を取り出して、ちゃんと平民でも解りやすい言葉で、あたしの説明したことを書き出す。そして、ターラント男爵のサインを入れて、最重要案件の書類の上に置いた。
さっきは本当にからかっただけらしい。考えてみると、最初からからかうつもりで、あの曖昧な文章を書いたのか、それとも指摘しなければそのまま通そうとしていたのか、一寸解らない。気を付けなければいけない相手だと、あたしは心の中にメモをする。
「たぶん君に矢を射た連中は、このギルドの会員には違いない。真逆そんなことに手を染めているとは思わなかった。最近頻繁に、大物を仕留めてきていたからね。もしかすると、その大物は統べてデニム家の管理している狩猟場所で、仕留めた物かも知れないね」
ターラント男爵は、実に憂鬱そうに腕を胸の前で組んだ。まるで、連中が逃げる時間を作るかのように、行動することが嫌で嫌で仕方が無いように見える。
「相手が解ったなら、直ぐにでも捕らえるべきでしょう。何しろ、御嬢を殺そうとしたのだから、其れなりの処罰を受けさせるべきだ」
と、レイが言った。
「その通りだ。この国の法に照らしても、決して許される物では無い。だから、捕まえる様に手配はしよう。彼らは手負いだ。そう簡単には、逃げ出せないと思うがね」
「貴方は、あの人達に思うところがあるみたいね」
「そうだね。彼らが、密猟に手を染めてしまっていることに対して、それほど罪深いことを為ているとは思えないのだよ。勿論君を殺そうとしたことは、決して許されることではないと思うけれど。自警団に追わせたいとも思えないのだよ。だから、ギルドの会員に探させることに為たい」
この領都近辺の、治安を維持している組織はいくつかある。私兵団と自警団の二つである。平民の間で起こる、もめ事を取り締まるのは自警団である。前世のような警察とは異なり、非常に恣意的な捜査と取り締まりが目立っていた。
自警団というのは、街の有志によって犯罪者を捕まえて、時には断罪する組織だった。何しろ、街の住民が自分達を守るために組織されている物だから、素人集団の行いが丸出しになっている。時には暴走した挙げ句、無実の住人を断罪してしまうこともあった。
そして、私兵団はデニム家のために存在している関係上。秘密警察的な色合いが濃いために、一般市民同士のいざこざを取り締まったりはしないのである。詰り、ここには真面な警察と言えるような物が無かった。
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