お土産はウサギ肉 21
あたしは巨大な机の端に身を乗り出して、ターラント男爵の手元にある書類に指を付けて、間違いを指摘した。その間違いは致命的で、うっかりするとあたしが悪いことになってしまうかも知れない。何しろ正式な書類なのだから、木賃とした物で無いと困ってしまう。
「この書き方だと、あたしが一方的に相手を攻撃したことに思われるかも知れないわ。あたしが平民だと思って、馬鹿にするのもいい加減に為て貰いたいわね」
「おや。君はこの難解な言葉が理解できるのかね」
調書としては、体裁を整えられては居るけれど。普通の生活では使わないような言葉が書き込まれている。とても難解な文章で解りにくい。悪いお役所の文章だった。
ナーラダ村で村長さんの手伝いを為ているときに、あたしは随分難解で婉曲的な、表現の書類を読み慣れているのだ。うっかりそういった書類に承認のサインなんかしよう物なら。大変損することになる。
そういえば、この人はあたしのことを馬鹿に為ていたんだっけ。勿論父ちゃんのことは、無視できなくても自分は安全圏にいると思っているのだ。
あたしは優秀と思っていたけれど、あまり頭は宜しくないのかも知れない。あたしのことを馬鹿に為てしまうのは、仕方が無いけれど。こう言った大事なことは、曖昧にして欲しくは無い。何しろ、取りようによってはあたしが、加害者になりかねない曖昧さだった。
他の文字を読むことも出来ないような、平民の狩人では無いのだ。ギルドにとって、都合の良いような扱いをさせるわけには行かない。こんな扱いをされるとは思わなかった。
「あたしはその程度の文章なら、読むことも書くととも出来ますわ。こう見えても、御屋敷のメイドですのよ」
本当はそれどころか、デニム家の娘なのだけれど。何を考えて、父ちゃんがあたしに賢者様の教育を受けさせたのか解らなかったけれど。こういった事を見聞きするたびに、学びの大切さを感じる今日この頃である。
本当に前世のあたしは、何で真面に学校に通わなかったんだろう。それでも、この時代の学よりはずっと解っている。あの頃もっと、木賃と学んでいれば、今頃色々とチートな事が出来ただろう。
「嫌、平民のメイドでは此れを理解できないだろう」
ターラント男爵が、何だかあたしに興味を抱いたような顔を為ていった。
「御屋敷のメイドでも、文字を読めない者の方が多かったはずだが。君は例外なんだな。しかもマリア御嬢様によく似ている。本当に、君はハーケンの娘なのか。ちっとも似ていないようだが」
「何を言っているのですか。御嬢は間違いなくうちとこの隊長の娘ですよ。弓持ち御嬢の恐ろしさは、僕らはよく知っている」
と、レイが話に割り込んできた。不敬と言われないか心配に成るタイミングだった。
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