お土産はウサギ肉 11
「じゃあ御願いね」
あたしは腰にぶら下げておいた、獲物袋をジャックに渡した。でも、悪いけれど金の類いは、持たせるわけに逝かない。信用していないわけでは何のだけれど、こういった物はなるべく自分で持って行った方が良いと思うの。
「リントン様にも報告しておいてくれな。後で報告書は僕が書くからさ」
「おう」
ヤンキー顔のジャックは、ビックリするくらい可愛らしい笑顔をあたしに向けてくる。このギャップがもてる秘訣なのだろう。
父ちゃんの小隊の連中は、皆可愛いところがある。皆いい男ばかりだ。
まあ中には、夜道で絶対会いたくない奴も居るけどね。見た目はともかく、気持ちのいい男達ばかりだ。だからといって、恋愛感情に発展するとは思えないけれど。連中も、あたしのことは未だ子供だと思っているだろうし、何よりおっかない父ちゃんの娘だしね。
ジャックは、ここに馬をつなげたまま、リタを預けているおばちゃんの所に行くつもりなのだろう。因みに先の戦争で、旦那を無くした未亡人のアデルさんだ。歳は確か三十歳だったと思う。
彼女はキャサリンと違って、子供を預かることで生活をまかなっている。手に職の無い女が、一人で生きていくのは、このあたりでは大変なことなのだ。
こんな事は、乙女ゲームさくらいろのきみに・・・では描かれていない。貴族階級の贅沢な暮らしぶりの中から、其れこそ一番綺麗なところだけを描いていたみたいだしね。プレイヤーとしても、こういった厳しい現実を知りたくも無いよね。なんと言っても、攻略対象の殆どが高位貴族だったし。
背景としての王都は、キラキラした夢の国状態だった。その割に、テーマが戦乱の中の恋って言うんだから、今のあたしに言わせれば、無茶ぶりも甚だしい。其れをプレイしていた、あたしは感動していたことは内緒だ。
こんな立場になって解ったことは、ここには生きている人が居るって事で、間違いなく此れが現実なんだってこと。怪我をすれば痛いし、血だって出る。お腹だってすくんだ。
ここは物語の中じゃ無い。生きるために、真剣に行動している。其れが例え、間違った事だったとしても、誰にも憚ることでも無い。それでも、ここに住んでいる住人が、最低限守らなければいけない決まりがある。
彼奴らには其れを守らせなければいけない。相手があたしだったから、射殺されなかったけれど、他の人間だったらどうなっていたか解んないんだから。
読んでくれてありがとう。




