デニム伯爵家のお屋敷
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相変わらず風はかなり強い。それでも雨の屋敷の全景が見えるところで荷馬車を止めて、雨具を脱ぐ。そして、あたりを観察する。
デニム伯爵家のお屋敷は本当にお城みたいな建物だった。前世に写真で見たことのある、建物よりはこぢんまりとしているけれど、それでも砦の規模では無い。あたしはこの国の地方貴族の屋敷の普通は知らないけれど、戦争を想定した物だと言えると思う。
何しろ立派な空掘りと城壁に守られており。門の両脇には三階建てくらいの棟が建っている。門の前には、空堀を越えるための木の吊り橋が掛けてある。城壁に沿って建っている高い棟が、四方を睨むように建てられていた。これって城だよね。
城壁の上からやはり大きな屋敷が見える。木造建築の三階建て、よくヨーロッパの大きなお屋敷を思い出させる建物。屋根は赤い瓦で葺かれており、灰色の漆喰で塗られている。日本のお城と違って、煉瓦の上に漆喰で化粧しているのだろう。
この国の王様は、絶対権力をまだ持っていない。他の貴族達の間には、未だに戦争の記憶が存在している。しかも、王が軟弱なら取って代わろうとしている者も少なくは無かった。そう言う設定だから、一人の小娘の行動で、簡単に内戦が起こり。隣国に付け入らせることになった。
其れが、ナーラダのリコが入れ替わっている、マリア・ド・デニム伯爵令嬢だったって言うのが問題なのよね。その際に、ヒロインちゃんと効力対象の恋愛模様が、コントラストを描いていたのよ。
背景としての戦争は、物語としてはありだけど、他の人間にとってはとんでもない迷惑よね。あたしはそう思う。
だからあたしは、マリア・ド・デニム伯爵令嬢を助けることにしたのよ。そうすれば、馬鹿なナーラダのリコが内戦を誘発して、隣国が攻めてくることは無いはず。既にフラグは折れているので、国ごとの破滅エンドは無くなっている。
本物のマリアが、悪役令嬢にでもならない限り。内戦は起こらないはずだし。当然のことながら、隣国に攻め滅ぼされることも無い。ゲームの強制力は気になるけれど、其処まで気にしては居られないわ。
しかも子供の時にはまって遊んでいたけど、高校に入ってからは不良になっていたから、リアルの恋愛の方がすごかった。あんまし楽しくは無かったかな。だめな男にはまったのよね。
「どうしようか?」
あたしは父ちゃんに話しかけた。出来れば回れ右したい。げーむのあたしは、よくこんな所に乗込んでいったなと思う。このお城みたいな屋敷は怖いわ。
「ここまできたら、引き返すわけにも行くまい。それに村のことも知ることもできるだろう」
「たしかに。行くしか無いか」
あたしは自分に活を入れて応える。
父ちゃんは、馬車馬オウルに指示を出す。ゆっくりとオウルはその歩みを進める。あたし達に気がついたのか、左の棟の扉の中から兵士が出てくる。ここまで来ると、大きな庭が目に入ってくる。
綺麗な庭園が広がっており、夏の花が咲いている。ただ嵐の影響か、だいぶ花が散ってしまっている。そこいらには使用人だろうか、所々に庭の手入れをしている者が見受けられる。




