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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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だらだらの上り坂にて

読んでくれてありがとう。


 未だに雨が降っている、風は相変わらず吹いているが、今は時々強い風が吹く程度である。嵐は去ったと言えるだろう。

 あたし達親子は、荷馬車の御者台に乗っていた。馬車馬オウルは今朝方に食べた、人参三本分は元気に荷車を引いてくれる。

 領都セイレインを立って、小一時間ほど立ったところで、オウルの足を止めて少し休憩することにする。領主の館はセイレイン山の中腹に建てられている。ここまで来ると、大きなお城のような屋敷が見えてくる。あたしに言わせれば、城と言って差し支えないだろう。このだらだらの上り坂からして、侵入者に対する防御になっている。間違いなく戦を想定した作りの館だわ。もしかして昔は、領主様と民衆の間には敵対してた。

 少なくとも現在のデニム家と、民衆は敵対はしていないかな。今の女主人である、デニム伯爵夫人は政治を旨く遣っている。高い税金を払っては居ても、それに見合ったサービスが受けられれば、みんな文句は無いのである。

 前方から騎士が馬を駆って、こちらに向かってくる。武装は長剣のみ、馬の鞍にはかなりの大荷物が載せられている。あたし達の前で、馬の足を止めた。ジャスミン・ダーリンさんだった。

「良かったな。無事にここまでくることが出来たんだ」

 あたし達に、ダーリン様が声を掛けてくる。ニコニコ笑顔がまぶしい。文官じみた感じは全く感じられない。

「おはよう。おかげさまで嵐に巻き込まれることも無く、ここまでたどり着くことが出来た」

 父ちゃんが口を開く。その声音には、どことなく敵意が混じっている。

「奥様が心配していたのでね。これで、私も安心して仕事に向かうことが出来る」

「仕事ってどこへ?」

 あたしは思わず聴いてしまう。 

「ナーラダ村並びに、そこからさらに下流にある、村々の救援に向かうんだ」

「村の様子は解ってきているのですか?」

「残念ながら。初動の報告以上のことは入ってきていない。今回は奥様の対応が早く、上手くいっていると思うよ」

 ダーリン様は笑って言った。

「私からはこれ以上は言うことが出来ないな。ただ、小麦畑の被害は相当だとは思うよ。人的被害については行ってみないとなんとも言えないな」

「あたし、村に戻りたい」

 あたしが呟いたのに気がついた、ダーリン様が困った顔をした。

「いや。君はまず奥様に会うことが必要だろう。それから考えることも出来るだろう」

 ダーリン様は、父ちゃんに対して敬礼をすると、馬に合図をして、走り出した。これ以上あたしに話したくないみたいに見える。





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