散々な休日 3
あたしはお喋り野郎の右腕を踏みつけた。情けない悲鳴が上がる。山刀を引き抜こうとしたから、遠慮は要らない。頭を撃ち抜かれないだけ有難いと思ってほしいものだ。
あたしの体重だから、腕は折れたりしないだろう。しばらく痛い思いはするかも知れないけれど。
お喋り野郎の身体を踏み台にして、横っ飛びする。あたしがいた空間を、矢が射貫いた。そして、後ろにあった木の幹に突き刺さる。
空中で身を翻って、撃ってきた奴を視認する。もう一人の中肉中背の奴が打ったみたいである。大男の方は、弓の扱いに慣れていないのか、さっき撃った奴に止められていた。
そういえば大男は、一言も喋っていなかったのを思い出す。寡黙な男なのか、少し頭が緩いのか、どちらだろう。
「痛ー。マシュー」
お喋り野郎が、大男を思わず呼んだ。
真逆こいつら、黒い三人組じゃないだろうな。こんなに連携の取れていない黒い○○○なんて言わないよね。ファンに文句言われるぞ。
あたしは、着地すると同時に、次の矢を番える。なんか調子出てきたみたいだ。タイマンに成れば、あたしは負ける気がしない。
少なくとも此奴らの、弓の腕なら間違っても当るわけが無い。何しろ動き回るあたしを、三人がかりで仕留められなかったのだから、当るわけが何のだ。
子供のあたしの身体じゃ、奴らに捕まったら如何することも出来なかっただろうけど。離れて、弓の勝負なら何とかなっちゃう。未だ、奴らの鏃には毒が塗られているから、当ったら最後なんだけれど。
何処かの赤い人が言うように、当らなければどうと言うことも無いのだ。何しろあたしは、素早さだけなら小隊の連中より早い。三倍とは言わないけどね。
取りあえず向かってくる奴を何とかして、お喋り野郎の治療が終わって、参戦してくる前に逃げ切っちまわないと、ヤバいことには違いない。白兵戦は、遣りたくない。
何しろ相手は、あたしを殺しに来ているのだから。出来れば人殺しに成りたくないと思っている、あたしとは明らかに出来ることが違うのだ。
殺して良ければ、お喋り野郎の頭を撃ち抜く。其れで、一人は確実に居なくなるからだ。其れを遣っちまうと、何だか後に引けなくなりそうだから、これ以上非道に成れない。この若さで、人殺しには成りたくない。此れが戦争なら、仕方が無いけれど。
中肉中背の奴は、身を低くして短弓を構えていた。確実に、あたしを射貫く覚悟を決めて居るみたいである。
勿論あたしは、黙って殺されてやるつもりは無い。急いで木立の後ろに、身を隠しながら、短弓に矢を番える。後方には、マシューがお喋り野郎の治療をしている。結構手慣れているんで、少しばかり焦りを感じた。
早いところ、中肉中背野郎を片付けないと、厄介なことに成るかも知れない。遣りたくはないけれど、急所狙ったからと言って、当るわけでは無いけどね。
読んでくれてありがとう。




