嵐が去って
読んでくれてありがとう。
日々楽しく書かせて貰っております。
屋根を叩く雨音は、ずいぶんと小さな物に成っている。木戸を酷く揺らす風は相変わらずだけれど。どうやら台風は内陸に入って、エネルギーを失い。熱帯低気圧になったみたい。
この世界の住人は、基本的に日の出と同時に起き出し、朝餉の準備をする。当然のようにあたしも起き出すようになっている。既に父ちゃんは起き出して、ベッドの毛布とシーツを片付けている。まあ、たたんだだけだけどね。
パンを焼く良い香りが、あたしの腹の虫を刺激する。この時間から、近所の生活が始まる。みんな何が起ころうと、腹が減るのだ。
ランプ亭ではパンを焼いている。ここで焼いたパンは近所の住人の食事を支えている。街の住人のほとんどが、パンを焼く習慣を持っていない。アパートにはオープンの施設をもつことなど出来ない。其れが出来るのは、お屋敷を持っている人間だけである。
挨拶をする、ご近所さん達の挨拶が聞こえる。早くもパンを買いに来た者が居るのだろう。あのぶっきらぼうな料理人は、旨いパンを焼くのだ。
ランプ亭は、領主から小麦を買っている。領民から納められた税としての小麦を、すべてのパン屋に買い取らせるように、法律として決められている。意外なほど見えない税金が色々隠れている。デニム伯爵家はそう言う意味でもやり手だと思う。
つくづく思うけど、乙女ゲーの世界の割に細かい。まあ、現実には違いないのだけれど、描かれていないことまで確り積み上げられている。その上で、あんなことが起こったりしたら、たまったものじゃ無いのかも知れない。
あたしが前世に頃には、作り話だと思っていたから、気楽に楽しむことが出来ていた。これがその世界に転生してしまうと、とんでもない大事であることが解る。どれだけの人が死んで行くことに御成るのか、描かれていなかったので、解らないけれど、恋愛物語の背景としてはたまらない。
「とにかく朝飯を食ったら、伯爵の屋敷に行くぞ」
父ちゃんはそう言うと、外に出かけられる、麻のズボンと胴着に着替えると、荷物のなから引っ張り出した、余所行き用の藍色のワンピースをあたしに寄越してきた。このワンピースは、母ちゃんの着ていたワンピースを直した物である。一張羅である。
「貴族令嬢にも負けない、礼儀作法を忘れるんじゃねーぞ。上手く取り入れば、村の衆の役に立てるかも知れないからな」
父ちゃんが言ってることが、あたしには意味がわかない。其れがどうしたって感じ。




