久しぶりの休日 10
「逃げんなよ。話がしたいだけなんだぜ」
最初に声を掛けてきた奴が、ゲラゲラ笑いながら言ってくる。その声は馬鹿にしたようで、実に気に入らない。チャンスがあれば、股間を思いっきり蹴り上げてやると、あたしは心に決めた。
「おいジャック。本当にやっちまう気なのか」
「確かに彼奴の親父には、随分酷い目に遭ってるからな。良い機会じゃ無いか。どのみち後戻りは出来ないんだからよ」
「其れもそうか。上手く事が運べば、この胸くそ悪いド田舎から、都会暮らしよ」
「其れもそうだな」
奴らの二射目が、あたしの鼻先をかすめた。既に次の矢が、栂えられている。良いように誘導されているような気がする。嫌な感じがした。なぶり殺しのフラグでも立ったのだろうか。
矢を番える時間が欲しかった。いずれは、矢を躱しきれなくなる。それどころか、転びでもすれば一巻の終わりだ。いきなり毒矢の餌食確定だ。
こんな時は、格好いいヒーローが現れて、助けてく他に助けがやってくる気配は全くなかった。そりゃそうだ、こんな森の奥にそうそう都合良く、第三者が居るわけ無い。一般人にとって、森の奥は未知の怪物が支配している場所なんだ。
西に向かえば、デニム家の管理している場所だから、そこそこ強い管理人が巡回している。連中の支配する場所まで逃げ切れば、あたしにも生き延びる可能性がある。だけど、奴らが追い込もうとしている方向が、西側だって事が気に障る。
あたしが奴らなら、簡単に矢で射殺せない獲物が居たとして、そいつが貴族の支配領域まで逃げるようにするだろうか。答えは否だ。なるべく、管理者の目の届かないところに、逃げるようにする。
森の奥になれば成るほど、安全に獲物を仕留めることが出来る。森の奥なら、相手をどうとでも出来る上。死体を闇の中に葬ることも出来る。
そんなことを考えながら、あたしは森の西側へ追い込まれていた。彼奴らの思うつぼってのが気に入らない。奴らの獲物が、毒矢だって事が反撃できないで居る理由なんだけどね。少しでも、傷ついたら何も出来なくなる。その事実は大変なプレッシャーになっていた。
矢を番える時間が欲しい。奴らの気がそれてくれれば、反撃することも出来る。せめて一射だけでも反撃してやりたい。今回毒を持ってこなかったのが悔やまれる。
読んでくれてありがとう。




