久しぶりの休日 5
あたしは腰に下げてあった矢筒を確認する振りをして、馬房に来ている人間が他にいないのを確認する。最近、あたしの周りが騒がしい。鼠狩りの時に、リントンさんに従っていた、おじさん達が時たま見かけるようになった。それ以外だと、旦那様の側仕えのお兄さんも、時たま見かけるようになっている。
やっぱり、マリア・ド・デニム伯爵令嬢の双子の片割れだって、知られたのが原因かな。なんと言っても、双子には不吉な伝承があるからね。家を滅ぼす獣の子だってさ。
それどころか、国を戦火に落とす役割が、ゲームの設定になっているのだけどね。あたしはそんなことに関わりたくは無いので、歴史の表舞台に立つ気はさらさら何のだ。それでも、マリアがあたしの代わりに悪役令嬢になったりしないように、影ながら助けたいと思っているのだけれど。
実際リントンさんには出し抜かれているし。本当に気を付けないと行けないかな。何しろあたしには、忍者みたいなスキルは無いし。前世の記憶があったとしても、その知識はとてつもなく偏っている。
父ちゃんに仕込まれた物は、普通の兵士が身につけている物以外には弓兵のスキルぐらいだ。賢者様に習った知識は、かなり高いレベルの物らしいけれど。普通に貴族として生きていく上で、困らない程度の物でしか無い。賢者様がいなくなったのが痛すぎる。
あたしはかねてから用意しておいた、短弓を鞍にくくりつけて。リントンさんに挨拶して、オウルの手綱を持って馬房を出る。あたし的には、あまりこんな処で時間を取られたくない。因みにあたしの腰には、今日の昼に食べるために、お弁当が入れてある。とは言っても、豚肉の塩漬けと、固いパンが入れられているだけだけど。
森の中には、わき水が出ているところが在るから、其処でお昼ご飯にするつもり。一応ご飯を食べるわけでは無いのだけれど、やはりご飯になっちゃうんだよね。
「誰か一緒に連れて行ったらどうでしょう」
出かけようとするあたしに、リントンさんが言ってきた。顔を見るとそれが言いたくて、こんな処まで来たらしい。奥様の意見なのかも知れないけれど、下手に素人を連れて行くと、罠の方はともかく、弓での狩猟は難しくなるかな。
「大丈夫だから、心配しないでって伝えてね。こう見えて、あたしは腕の良い狩人なんだから」
あたしはそう言うと、ヒョイとオウルの背に飛び乗った。手がかり足がかりが有れば、馬に乗るのは簡単だ。何時も乗っている馬だから、お互いに呼吸が合っているし。
「じゃ。行ってきます」
リントンさんに挨拶をすると、オウルに足で合図を送る。彼はゆっくりと歩みを進め。やがて並足に成る。この時間は、御屋敷内を移動するのはこの速度以上は出すわけには行かない。叱られたくないしね。
読んでくれてありがとう。




