大人達の会話
甘い香油の香りが立ちこめた、アリス・ド・デニム伯爵夫人専用のサロンには、四人の男女がテーぶりの座って、昼食が運ばれてくるのを待っている。小さな溜息をこぼす声と、なにやらぶつぶつ呟く男の呟きが聞こえる。
「やはり思った通りの結果に成りましたね。確かに完全に掛け違いをしていますから、簡単に納得はしないと思いましたけれど」
貴族令嬢らしい仕草で、侍女のドリーがアリスに話しかけた。彼女は、アリスに対しても遠慮無く意見を言うことが出来る立場である。そして、この部屋に居る者は、アリス・ド・デニム伯爵令嬢に対して、意見を言っても不敬となったりしない立場である。
「あの子の結論については、始めから予想していました。彼を説得できなかった以上、如何することも出来ないでしょうね」
と、アリスがうつむきながら言った。
「双子を汚れとする因習は、遙か昔から在りましたからな。双子のために国が滅ぶこともあったのですから、致し方ないのかも知れません」
ヘクター・リントンが、額を揉みながら言った。少し寝不足らしく、顔には疲労の色が見える。
「昨夜は寝ていないのでしょう。この食事が終わったら、少し休みなさい」
アリスも少し青い顔をしながらも、優秀すぎる執事を労う言葉を掛けた。何しろ彼は、執事の仕事の他にアリスの目と耳を統括しているのである。昨夜は、デイモン・デニム伯爵の連れてきた、曲者の動きを見張るために、彼自ら動いていたのである。
「旦那様の連れてきた、従僕は中々働き者で、御嬢様も尋常で無いほど例敏な者ですから、完全に気付かれないようにするには私が動かなければ成りませんでしたからな」
疲れを隠せない者のリントンは、実に楽しそうである。最近は、彼の指揮下にある者を使って、情報収集をしていた彼であるが。久しぶりに身につけた、技を使うことが出来て楽しかったのだろう。
「御嬢様はそれほどなのですか。此れからどう致しましょう。私かなり厳しく当ってしまいました。奥様どういう態度をしていったら宜しいでしょうか」
絶対にメイド達には見せてはいけない、小心な顔を見せながらサンドラが呟く。彼女は、本当は大変小心者なのである。何時もメイド達に対して、厳しく当っているものの家に帰ると後悔し続けている。本当は、優しく当りたいと想ってはいるけれど。相手のことを考えると、厳しくしなければと自分に言い聞かせているのである。
少しの間この人達の会話に成ります。
読んでくれてありがとう御座います。




