デニムの娘(仮)7
奥様のサロンは、同じ階の南側に在った。この御屋敷は、城と言った方が良いくらいの作りをしており。廊下の作りが複雑で、所々に仕掛けが用意されている。外部の人間にとっては、忍び込むことが難しい作りに成っている。
前世に付き合っていた、オタクの友達なら舌なめずりしながら、仕掛けの説明をしてくれるだろう。彼女は、振り切れた歴女だったのである。転生するんなら、彼女の方が適任だったのでは無かろうか。何であたしみたいな、ダメダメな不良を転生させたんだろう。
中々どうして、ヘクター・リントンさんの足が速い。十三歳の子供の足だと、如何しても置いていかれてしまう。だからといって、走るわけにも行かない。間違いなく叱られる。
兎に角、早足でヘクター・リントンさんの背中に追い着こうと頑張っている内に、目的のサロンに着いた。何時も奥様が、仕事をするときに使っている、高価なガラス窓をこれでもかと使っている明るい部屋だ。
いわゆる温室のように成っているので、冬でも暖かい。暖炉はあるのだけれど、それほど火を長く入れておかなくても、過ごしやすくなっている。
リントンさんが、あたしが追い着くのを待って、サロンの扉をノックする。この時は間違いなく、執事の皮を確り被っている。柔和な笑顔が実にダンデイ。あたしを尋問している時の、凄味はどこにも見受けられない。
「ナーラダのリコ殿をお連れいたしました」
女性の声で返事が返ってくる。そして扉が開いた。
扉を開けてくれたのは、侍女のドリーさんだった。あたしが着ている最寄りは、確実に良いお仕着せの服を着ている。仕事着的な物では無く、ドレスといった方が良いかも知れない。なんだかんだ言っても、彼女は間違いなく貴族の御令嬢なのだ。
扉が開くと同時に、甘い香りがあたしの鼻腔をくすぐってくる。奥様は、この香りがことのほかお気に入りで、仕事中は必ずこの香りの香油を使っている。
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