デニムの娘(仮)6
どうやって、昨夜のあたしの行動に気付いたのか。暗い夜道で、あたしを尾行していたのは一人しか居なかったはずで、他に知ることが出来るとしたら、寄宿舎にいる誰かが知らせたって事かな。あたしの視線から逃れるようなことが、出来る人間はいないのだから。
この人鋭いから、嘘をついても見抜かれそうだな。如何した物だろうか。
「存じておりました。でも、捨子だったと言うことだけしか知りませんでしたよ。だって、両親に似ていなかったから。それに、こういった事は如何したって、村の衆の中に広まってしまう物だとは、思いませんか」
嘘を少し混ぜておく。簡単には見抜けないだろう。
だって本当のことを言えば、頭が可笑しくなったと思われるのが落ちだ。前世の話から、話したところで、とうてい信じてはくれないだろう。だいたい、あたしだって信じられないのだから。
「ハーケンの話では、貴方には捨子だったことを知られないようにしていたそうです。捨てられた事情についてはなおのこと、秘密にしていたはずで、良くそんなことまで気付いていましたね」
実にさりげなく、尋問してくる。たんなる不良の口車には乗ってくれないか。この人苦手だ。
きっちり裏取りしてから、あたしに会いに来たんだこの人。
「だって、御嬢様は血のつながった、姉妹なのだから、気付くこともあると思うわ」
我ながら、苦しい良いわけ。此れで、納得して貰えなかったら、どうしよう。顔が少し火照るのが感じられる。嘘があることには、気付かれているよね。
「其れもそうですね。今の処は其れを信じておきましょうか。未だ貴方は、デニム家を信じられないのでしょうし。仕方の無いことかも知れませんしね」
ヘクター・リントンさんが、肩を落としてそう言った。完全に、あたしが嘘をついてることは、バレバレだって事だね。やっぱりこの人苦手だわ。
「処で、リントンさんは父ちゃんのことをよく知っているみたいですけれど、どういった関係だったのですか」
あたしはこの人の気がそれるように、あまり関係の無いことを尋ねた。出来れば、この尋問モードから逃れたい。普通の執事に戻って欲しい。この人の圧がすごすぎる。
「奴とは昔からの友達で御座います。同じ師匠から体術を倣った中ですので。兄弟弟子でしょうか」
ヘクター・リントンさんの強烈な圧が消えた。気がそれただけかも知れないけれど、ようやくあたしは真面に、呼吸が出来るようになった。
「だいぶ遅れてしまいましたね。奥様がお待ちです。急ぎましょう」
あたしは、執事に変わったリントンさんに、頷いて歩き出した。内心ホッとしていたのは内緒である。たんなる不良にはきつすぎる尋問だと思う。児童虐待で訴えてやる。どこに訴えて良いか解らないのだけれど。
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