デニムの娘(仮)4
あたしとマリアの話し合いに、割って入ってくる者が現れた。マリアの部屋の扉をノックする者が現れたのである。執事のヘクター・リントンさんだった。
扉を開けた彼は、綺麗な挨拶をしてみせると、音も無く部屋の中に入ってくる。その身ごなしは、嵐の夜の戦闘モードを思い出させる。
彼が自分でやってくることは、大変珍しいことだった。よほど重要な用事が在るのだろう。
「お茶でしたか。申し訳ありませんが、奥様がサロンの方へ来られるようにとのことです」
「ええ……。解りましたわ」
マリアが、カップに残っている紅茶を飲み干すと、少し緊張した様子で立ち上がる。
あたしもマリアに倣って立ち上がる。どのみち、彼女が奥様に呼ばれたのなら、休憩は終了と言うことだ。未だ残っている、メイドとしての仕事をしなければならない。
「ナーラダのリコ様。貴方も奥様が呼んでおりますよ」
そういえば奥様とは未だ話していなかったな。出来れば有耶無耶になると良いなとは思うのだけれど。其れは無理筋かな。
「あのー。リントン様。今、敬称が付いていたようですけれど、どういう事でしょうか」
「其れは私がうかがいたい処ですね。私は此れから、どのようにお呼びしたら宜しいのでしょう」
ニッコリと笑って、リントンさんが言った。
「リコ。先に行っているわよ」
あたしの方をしばらく見詰めていた、マリアがなんか泣きそうな顔をして言った。折角落着いてきたのに、不安定になってしまったみたい。未だ彼女は十三歳なんだよね。
「どういう事でしょうか」
「貴方が、奥様の実子妥当事は存じておりました。かなり訳ありであることも存じております。私は貴方がこのまま、メイドとして奥様のおそばにいてくれれば、それはそれで良いことだと思っておりました」
「貴方も知っていたんですか」
「ええ、私も最初から知っておりました。奥様が、旦那様と結ばれるより以前から、この御屋敷に勤めさせておりました者ですから。長いことおりますと、多くのことを知る機会がありますので」
「……」
「ただ、貴方は何も仰らなかった。知らなかったと思っていたのですが、貴方は実は全てを知っていたようですね」
少し、リントンさんの視線が厳しくなっている。あたしはこの人が怖いと思った。少なくとも、この執事さんは父ちゃん波には強いのだ。
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