デニムの娘(仮)3
マリアがあたしの方を見て、泣き笑いしている顔をした。初めて会ったときの、あたしをドッペルゲンガー扱いしたときより、ずっといい顔になっている。一応嫌われていないのだろう。
「ねえ。リコは私の妹なのでしょう。本当はデニム家の娘として、相当の権利や財産があるのよ。それに御父様や御母様の娘として、扱われるようになるのよ」
マリアが落着いてくると、そんなどうでも良いことを言ってくる。そりゃ金があれば、やっぱりかなりの贅沢が出来る。平民には考えられないほどの良い思いも出来るだろう。でも、其れにはとんでもない責任がセットになっているのだ。
あたしは貴族が引き受けなければいけない、重たい責任はノーサンキュウなのだ。絶対言えないけれど、此れからとんでもないイベントが待っている。一歩間違えると、お隣の国に侵略される。デニム家は最も最前線となる場所なのだ。
デニムの城壁に囲まれた、御屋敷が敵兵に取り囲まれているスチールを見ている以上。デニム家の人々はただでは済まなかったろう。当然のことだけれど、あたしのナーラダ村もただでは済まないと思う。悪役令嬢マリア・ド・デニムが、敵兵を引き入れていたのだけれど。
ナーラダのリコが、貴族になるとそういったフラグを立てるかも知れない。それなら、メイド擬きでいた方が良い。この妹を裏から、見守ることが出来れば、隣の国の侵略を未然に防ぐことが出来るかも知れないのだから。
「今の私は、十分に満たされてるしね。何しろ寝床は悪くないし。お給金は良いしね」
「でも、貴方は私の姉妹なのでしょう。なら、やはり私と同じ扱いされても良いのじゃ無いかしら。デニムの娘としての立場は、誇らしいと思うわ」
「悪いけれど、貴族になりたくは無いかな。奥様を見ていると貴族の立場には、あたしは魅力を感じられないかな。貴方を此れからも守ってあげるわ。其れが仕事でもあるし、唯一の姉妹みたいだから」
奥様には、殆ど自分の時間は無い。この半年間、奥様のことも見ていたのだけれど。よっぽど使用人の方が自由があるともう。
一寸ぐらい贅沢ができたからと言って、領主の身の上にはとんでもない責任が乗っかっている。もっとも、あたしが知っている領主様は、奥様しか知らないのだけれど。
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