マリア・ド・デニム伯爵令嬢の悩み 8
「そうね。私は貴方が、何故御母様に特別扱いされているか納得したわ。そして、妬んでいるのかも知れないわ」
マリアには、何故リコのことを妬ましく感じているのか解らなかった。理性では、リコの方が可哀想だと言うことは判っているのだけれど。如何しても妬ましい。それと同じだけ、リコのことが好きなのである。
「そうだよね。急に姉妹だなんて言われても、今更思えないよね」
「御免ね」
マリアの視界が歪んできた。頬を伝って涙が流れ落ちる。彼女の心の色々な感情が、涙という形で溢れ出した。悲しくは無いのに、涙があふれでてしまう。
「大丈夫だから。あたしはさっきも言ったけど、父ちゃんの娘だと思っているの。産んだのが、だれだろうと関係ないわ。そのていどのことで傷ついたりはしない」
リコはそんなことを言いながら、困ったような顔をして、メイド服のポケットから、ハンカチを取り出した。でも、そのハンカチをマリアには渡すことはしない。かなりハンカチが汚れていることに気が付いて、またポケットに戻す。
マリアは、そんなリコの仕草を見ると、何だか可笑しくなってきてしまい。思わず笑ってしまった。此れまで生きてきた中で、こんな複雑な感情に、とらわれたのは初めてだった。
「何故、昨日使ったハンカチを持っているのよ」
「何でだろうな。自分のハンカチを使って」
リコは、決まりの悪そうな顔をして、そっぽを向いた。
「私の服にはポケットが無いの。ねえ、ハンカチを取ってきて」
「畏まりました」
リコは徐に立ち上がると、軽く腰を落として見せた。そして笑ってみせる。因みに、その仕草は先輩メイドに見られたら、お小言の一つくらいは貰う物である。木賃としたコーツイには成っていないのだ。
リコは間違いなくふざけているのだ。まだ休憩中だと言いたいのだろ
マリアは、リコの視線が外れたことを確認すると、小さく溜息を付いた。自分でもどうしようも無い感情に、戸惑いながらも落着いてきたことに気付く。
どのみちリコとは付き合っていかなければならない。その事は間違いの無いことで。マリアには如何することも出来はしないのだ。だから、もう少し時間を掛けて考えていこうと思う。どのみち結論は、彼女には出すことが出来ないのだから。
リコの言う通り。メイド件護衛としての、彼女と付き合っていけば良いのだ。リコはデニムの娘に収まるつもりは無いのだから。
読んでくれてありがとう。明日はナーラダのリコ視点に戻ります。




