マリア・ド・デニム伯爵令嬢の悩み 6
廊下を歩く足音が近付いてくる。たぶんリコの足音だろう。流石に、あの変な歌は聞こえてこない。他の使用人の手前もあるから、あんんな歌を歌い無いがらは歩かないだろう。
本当に最近ノリコは、ちゃんとしたメイドらしい行動をするようになっている。黙っていれば、デニム家のメイドとして通用してしまうよう。そして、護衛としてもかなり脳でらしい。
マリアは実際、リコが暴漢と戦うところは見ていなかったのだけれど。若いハンサムな兵士に聞いたところ、ほぼ負けたところを見たことがないらしいのだ。その相手の力量は解らないけれど、年上の男相手に負け知らずはとんでもないことだと思う。
本当に、此れまで通り使用人として付き合えれば良かったのに。其れが姉妹なんて嫌すぎる。
ノックの音。リコが来たのだろう。
「御嬢様。お茶の用意が出来ました」
扉がゆっくりと開いて、ナーラダのリコが顔を出す。彼女の右手には、真鍮製のポットがあった。ワゴンを使って持ってくれば良いのに、重たいポットを片手で持っている。
因みに、あのポットに熱湯を一杯にすると、マリアでは片手では持つことが出来ない。両手を使って辛うじて持つことが出来る程度なのである。しかも給湯室から、マリアの部屋まではかなり距離がある。
この時間で戻ってくることができると言うことは、行には走って向かったのだろう。その割には走る音が聞こえなかった。どこまで人間離れしているのだろうか。
「御嬢様お茶だけ出宜しいでしょうか。もしもお茶請けが必要でしたら、秘密のお茶請けをご用意いたします」
「ええ…。朝食を取ったばかりですから、お茶だけで宜しくてよ」
マリアは、意識的に笑顔を作って応える。あの秘密のお茶請けというのは、リコが自分のために作る、芋を細切りにして油で揚げた物だった。美味しいとは思うけれど、今食べたいとは思わない。
リコはティーセットを取り出すと、マリアのお気に入りの紅茶を入れてくれる。この紅茶は、御父様が定期的に送ってくれる紅茶である。輸入物の、高級茶葉だそうなので、何時も飲むようにしている。本当はもう少し甘みが欲しいところだけれど、そんな我儘は言うわけに行かない。なんと言っても、御父様が買ってくれた物なのだから。
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