マリア・ド・デニム伯爵令嬢の悩み 4
リコの歌声が止まった、私の部屋の扉が開く。
ナーラダのリコが、扉から顔を出して笑いかけてくる。彼女は本当に私に似ている。双子だそうだから、そっくりなのは当たり前なのだろうけれど。似ているのは見た目だけだ。
まるで悩みなんか無いみたいに、笑いかけてくる。其れがマリアには信じられなかった。
彼女は御爺様に捨てられた。本当なら私のことを妬んでいても不思議じゃ無いのに、そんなこと気にもしていないように見える。
それに比べて、マリアは酷く嫌な気持ちになる。まるで心の中に、どす黒い感情が湧いてくる。其れがいわゆる嫌悪という物なのかも知れない。
「御嬢様。少しお顔の色が優れないようですね。お部屋で少しお休みになりますか」
と、リコが尋ねてくる。あの笑顔が消えて、心配そうな表情になる。
今のリコは、本人曰く立派なメイドモードなのだと言っていたことを、マリアは思い出した。何とか意識して笑顔を作り出す。
兎に角最近のリコは、貴族の側仕えらしい言葉で話しかけてくるようになった。侍女のドリーから厳しくしつけられているらしい。それでも、所々で村娘が顔を出す。
「大丈夫。其れより貴方とお話ししたいわ。貴方の本当の気持ちを知りたいの」
マリアは思い切って言った。
何を聞きたいのか解らないまま、思わず言葉が溢れ出してしまった。心の中のモヤモヤが、それを言わせたのである。
「少し早いけれど、お茶を入れてくれる」
マリアは、兎に角言葉を続けなければいけないと思って、メイドモードの彼女に頼んだ。
本当に心が乱れてしまっていて、どう聞いたら良いのか。何を聞こうとしているのか、マリア自身にも解らない。ただ、リコの考えを知りたい気持ちは、確かに存在していた。
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