マリア・ド・デニム伯爵令嬢の悩み 3
マリアはなんとも鬱屈した感情をもてあましながら、自分の部屋の在るところに到着してしまった。直ぐ其処に自分の部屋の扉が見えている。その部屋の中には、リコが何時も通りに部屋を整えているに違いない。
実際部屋の中から、リコが仕事をする際に良く歌っている歌が聞こえてくる。軽快なリズムで、仕事がはかどりそうな歌だ。その歌詞は、マリアの知っている類いの言葉では無い。
マリアは以前不思議に思って、リコに尋ねたら困り顔をして、出鱈目な歌だよと言っていた。でも、その歌には意味があるように思える。彼女には、何処か知らない国の言葉のような気がする。
そして、リコが逆上したときに発する言葉もそれに近い物だった。たまに口げんかをするときに、彼女が口にすることが其れだ。因みに喧嘩の最中に叫ぶ、彼女の言葉は、間違いなく怖い内容だと言うことは判る。
今、リコが歌っている歌は聴いていると楽しくなる物だ。マリアは、リコが時々使う言葉は魔物の言葉だと思っているのだけれど。彼女と血がつながっているのだとすると、もしかして自分も魔物かも知れない。そう考えると怖くなる。
そういえば、マリアの母親なんかも他の貴族達に、マルーンの虎とか女傑とか噂されていることも、恐ろしかった。
マリアは、そんなことは無いと思いたいのだけれども。闇の中で光る瞳や、殆どまともに教育を受けていないはずなのに、彼女と遜色ないほどの学力。もしかするとそれ以上の、色々な知恵を持っていることが恐ろしい。
マリアは、リコと姉妹。しかも忌み嫌われる獣腹の双子。初めて会ったときの、ナーラダのリコを恐ろしい怪物みたいに感じたことが、真実のように思える。。
マリアの中で、ナーラダのリコの姿が恐ろしい怪物の姿に感じられてくる。でも、いつの間にか彼女が側に居ることが、当たり前になっていた。
リコは使用人の中で、最も当てに出来る人になっていた。主従の関係ではあるけれど、気軽に話が出来る関係。時々は口喧嘩をしても、直ぐ仲直りできる良い関係だった。
今更、姉妹としての付き合いなんかできない。其れはマリアの本音であった。本当にどんな顔をして、会ったら良いのだろう。
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