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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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マリア・ド・デニム伯爵令嬢の悩み 2

「おはよう。良い天気ね」

 マリア・ド・デニム伯爵令嬢は、使用人との会話のさいに使う常套句を口にする。頭の中で、彼女の名前を思い出そうとするけれど、まだ一寸思い出せないでいた。

 丸顔に丸い体型の彼女は、結構特徴の有る見た目なのだから、顔とを見て名前が思い出せない。あまり話したことがないメイドだった。

 マリアは、基本的に庶民出のメイドとはあまり話すことがない。ましてや、未だに新人メイドとは話す機会自体が無かったのである。だから、彼女は末端の使用人の名前を覚えていなかった。良くも悪くも御貴族様の御嬢様なのである。

 命の恩人であるナーラダ村のリコとの関係が、かなり特異な関係と言える。唯一庶民出の使用人の中で、口喧嘩をするような関係は、リコだけである。後はメイド長のサンドラ位か。

 それ以外は、皆役職で覚えているくらいである。実際同じメイド職でも、高級使用人になる人間は基本的に貴族階級だったので、名前を覚えている。だから、よほど優秀な人間でなければ、庶民から高級使用人には成らないので覚える必要を感じなかった。

 マリアの中で、ナーラダのリコとの間に血の繋がりがあると聞いて、何処か納得する。でも、双子の割に全然違う。

「御嬢様、大丈夫ですか。顔色が悪いですよ」

 丸顔のメイドが、マリアの顔覗き込みながら言ってくる。少し心配しているような表情をしている。

「大丈夫」

 内心嫌だなと思いながら、マリアが応える。たんなるメイドの癖に、距離が近すぎる。

 マリアは、平静を装いながら、一歩後退した。このことは初めて話したにもかかわらず、距離感が近すぎる。名前を知っていたら、サンドラに弔慰して貰おうと思う。

 本当なら、マリアは平民出の娘とは真面に話すことも無い。だから、この新人メイドの距離感は気にくわなかった。真剣に心配されていることも、勘にに障る。怒り出すような物では無いけれど。

「貴方は仕事中なのでしょう。そんなはしたない歌なんか歌っていないで仕事に戻ったら良いでしょう」

「あ……。失礼いたしましました」

 丸顔のメイドは、少し傷ついた顔をして、メイドとしての礼をして、ワゴンを押して歩き出した。

 マリアは心の中で、しまったと思いながらもその後ろ姿を見送る。平民の使用人が、どう思おうと気にしては、いけないとは思うけれど。何となく後味が悪い気がする。






読んでくれてありがとう。


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