押しかけガーディアン 8
「貴族なんて面倒くさい物にはなりたくないわよ」
「そうかなー。贅沢できるし、何もしなくても遣っていけるんじゃない。こんなに楽ちんなことは無いと思うけどな」
と、スザンヌ。何時も変わらない言い方が有難いかな。
「あたしは村娘なんだよ。御貴族様になんか成りたくないわ。なんか責任は重いし。奥様を見ていると、とてもじゃないけど遣れないわ」
何だか彼女と話しているときが、使用人仲間の中では一番気楽に話すことが出来る。出来れば、この関係が長く続いてくれますように。あたしは心から願っている。
「確かに……。あんたは御貴族様なんか、似合わないかもね」
スザンヌはクスリと笑って、あたしの二の腕を軽く叩いた。
「クッキー頼んだわよ。後で回収に行くかんね」
スザンヌは、結局あたしがデニム家の子供だろうがどうでも良いのだろう。何時もと変わらない、彼女の表情にあたしはホッとしていた。なんか友達って良いなと思う。
スザンヌは、鼻歌を歌いながらマリアの部屋を出て行く。その歌の内容は、領都で流行っている不倫を揶揄する歌だった。確か、最近遣ってきた吟遊詩人が流行らした歌だったはずだ。因みに、あの歌はサンドラさんに聞かれたら、こっぴどく叱られる類いの物である。
扉を閉じると、思わず溜息が漏れた。
スザンヌが変わらなかったことが、とても良かった。あたしはこのまま続けて行くことができる気がする。なんと言っても、一番仲の良い使用人仲間であるから、彼女が変わらなかったことが有難い。
たぶん父ちゃんが関係している、兵隊さん達は変わらないだろうし。使用人達の中には、変わってしまう者が居るかも知れないけれど。彼女が変わらなければ遣っていける。
スザンヌが居てくれれば、あたしは遣っていける。旦那様が考えてるほど、あたしは弱くないのだ。
此れは内緒だけれど、マリア・ド・デニム伯爵令嬢も意外なことに気に入っているのだ。少し駄目子ちゃんだけれどね。あいつらに良いように操られて、悪役令嬢の役割を演じさせたりしない。
あの子が、やらかしたら国がなくなっちゃうかも知れないしね。国を守りたいなんて思わないけれど、あたしの村の衆が酷い目に遭うのは嫌だしね。
あの子が嫌だって、言ってもガーディアンは遣るしかない。せめて隣の国から侵略されないようにしくっちゃ成らないし。
読んでくれてありがとう。




