押しかけガーディアン 3
「ご馳走様」
他の貴族の人たちよりは早く食事を終わらせて、席を立つようにする。あんまりゆっくりしていると、サンドラさんあたりにどやされそうな気がするのだ。
あたしは、事実上デニム家の子になることを断っているのだから、せめて仕事をする態度を見せなければ行けないような気がする。だから、メイドの仕事に戻って見せなければ行けない。この仕事に関しては、もう少し簡素化しても良い気がするのだけれど。要はやりようなのだ。
「取りあえずお仕事に戻りますね」
「待ちなさい。貴方はそれでいいの」
と、奥様が尋ねてくる。
「其れで私は満足していますから。少なくとも御嬢様が、ご無事にご卒業なさるまでは、守護者をさせてください。其れまでは、このままで居させていただければ、有難く思いますわ」
どのみちあたしは、要らない子なのだから、今更だと思うしね。生みの親より育ての親って言うしね。少なくとも、デイモン・デニム伯爵みたいに、尊敬できない親の子供になんか成りたくも無い。そういう意味じゃ、あたしはラッキーだったのだろうなとも思う。何しろ親を選ぶ権利がこっちにある。
「こういうことは、私だけで決めることは出来ないと思います。それに、簡単にできることでも無いのではないですか。確か貴族には、ちゃんとした戸籍があったはずで、どこの誰それがどこで生まれたか書かれていたはずですよ」
「フイル・バーグさん。私も手伝います」
あたしが飲んだティーカップセットを、彼が押しているワゴンに乗せた。
フイル・バーグさんは、小さく笑って手を引っ込める。一寸悪いことをしただろうか。
「其れには及びません。此れは私が承った仕事ですので。もう少しゆっくりしていらっしゃったら宜しいかと」
その丁寧な言葉の裏に、あたしは何か悪意のような物が混じっている。此方の考えすぎなのかも知れないけれど、この人の声音の其処に気味の悪い物が感じられるのだ。声は良いのだけれど。
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