此れからのこと 16
奥様が大きな溜息を付いた。気がかりそうにドリーさんが、奥様を見詰める。だいぶ心配しているみたいである。
「解ったわ。貴方の言うことは間違いないのかも知れないわね。でも、私は貴方の母親だって覚えておいてね」
奥様はきつい視線を、旦那様の方を向いている。熟々夫婦同士の対する視線とは思えない。離婚した方が良いんじゃ無かろうか。離婚は簡単では無いのかも知れないけれど。
「其れは承っておりますわ。でも、私は捨てられた子供です。今更、親だと言われたからと言って、納得できることでも無いと思われますわ」
マリア・ド・デニム伯爵令嬢の視線が痛い。たぶん彼女だって、かなりショックだったのでは無いだろうか。ぐれないと良いのだけれど。だって、年齢的に難しい年齢だしね。
だってあたしは気が付いたときから考えると、間違いなく大人なのです。だから、これぐらいで不安定になったりはしないけれど。マリアはそうはいかないだろう。
何しろ、あたしは捨てられたことを知っていたし。どうして、捨てることになったのかを知っている。此れは今更なのだ。
「君は素晴らしいね。自分の立場をわきまえている」
デイモン・デニム伯爵は、実に機嫌が良さそうに言ってきた。
「君はこのまま、領地でメイドでも為ていたら良いんだ。その方が、君のためになるだろう」
「いえ。来年は、御嬢様のメイドとして旦那様に御厄介になるかと思います。その時には宜しくお願い致します」
来年は、マリアについて王都の学園に行かなければ行けない。何しろ、そうしないとマリアが悪役令嬢に成ってしまうかも知れない。あたしの代わりに、彼女が悪役令嬢に成っちまうのは避けなければいけない。斜陽の美女なんて、洒落に成らないのだ。
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