此れからのこと 10
少なくとも伯爵は、あたしを養女に迎えたいとは思っていないみたいだ。あたし的には有難いかな。この人の思惑に乗せられて、悪役令嬢マリアは間違ったことをし続けた。自分の恋処か、多くの人間を巻き添えにして、破滅してしまった。
自分の大事な故郷を潰されるだけでは無く。隣の大国の侵略を許すきっかけを作ってしまう。乙女ゲーム桜色の君に・・・の後半は、ヒロインちゃんと心を一緒にした、攻略対象達の逃避行や戦いが描かれているのだけれど。どれをとっても、間違いなく国は無くなってしまっていた。
ヒロインちゃんにとっては、其れなりにハッピーなエンディングだけれど。他の人間にとっては、決して良い物では無かった。後半は復興の物語だけれど。其れまでが悲惨すぎる。
ようやくマリアがサラダに手を付け始めた。目の前の旦那様の仕草を見て真似することにしたのだろう。王都風はこのあたりの貴族のマナーより難しくなっている。普段はこんなにカトラリーを並べて食事をしないのだ。なんだかんだ言っても、ここは田舎だし。
この食器の類いは、もしかすると旦那様が持ち込んできたのかも知れない。あたしは、後でサンドラさんの聞いてみることにする。
あたしはハブられていたから解らなかったけれど。きっと使用人達を困らせたんだろうな。もっとも、こういった流行はいずれここまで、浸透してくる物だから、遅かれ早かれやってくる事だけれど。ただ不思議なのは、こういったマナーが前世に遵守していた。
あたし的には、簡単で良かったのだけれど。学のない不良でも、何となく解ることだったからね。それに、目の前の奥様も解っていたみたいで、ゆっくりと見せてくれたしね。ただ、奥様は何処か左腕を痛めているみたいで、カトラリーを使いずらそうにしていた。それに、湿布薬の臭いがしている。怪我をしているのかな。
「何を言われているのか判りませんけれど。私はハーケンの娘ですから。勿論デニム家の者になりたいとは思っておりません。私はあくまでも村娘です。ただ、このまま暫くはお勤めさせていただければ、有難く思いますわ」
「それで宜しいの」
奥様が尋ねてきた。少し厳しい表情。
「ええ。このままで」
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