此れからのこと 3
父ちゃんは、あたしの手元を見ている。既に食事は終わり。自分で入れたお茶話あたしは口元に当てる。お茶の良い香りがあたしの鼻腔をくすぐっている。因みに此れは、あたしが差し入れたお茶だ。
そういった事には、全く気にも留めたりしないのである。うっかりすると、同じ服を何日も着ていたりする。誰か面倒を見てくれる者が居ないと、生活できないタイプだ。こういう人は、仕事が無くなったらあっさり死ぬかぼける。そのあたりは前世の親父に似てるかな。前世の親父は普通の会社員だったけれどね。
「今の処、あたしには貴族になれる気がしないんだけど。例え、田舎貴族の御令嬢だったとしても、勤まらないと思う」
「……」
「そんなことは無い。御前はどこへ出しても恥ずかしくない娘だ」
そうだなって頷いておけば良いのに。どこまで行っても、あたしのことが好きなんだから。
確かにあたしは、マリアと遜色ないくらいの学力を持っていることを実感している。賢者様の教育のたまものだろう。其れと前世のぐれる前までの、あたしは其れなりに学ぶことが好きだった。今思えば、もう少し色々なことを覚えていればと思う。
「あたしは貴族には成らないよ。いつまで経っても、あたしの親は父ちゃんと母ちゃんしか居ないから」
なんか聞いたような台詞だなと思いながら、あたしは父ちゃんの顔を見詰めた。普段強面の顔が、情けない顔になってしまっている。手元にスマホがあれば記念に取りたいくらいだ。こんな顔は、母ちゃんが亡くなりそうな時以来だ。
有り触れた事だけれど、生みの親より育ての親って言うじゃ無い。なんだかんだ言っても、守って育ててくれたのはこの人なのだから。この絆は簡単に投げ捨てたりしない。
「もしかすると、色んな処から圧力を掛けられるだろう。そんなときは俺に言ってくれ。何とかするから」
父ちゃんはらしくない言葉を言ってくれる。平民である父ちゃんには、貴族に対して如何することも出来ない癖に、なんか本気みたいに聞こえる。
「ヤバくなったら、逃げちまえば良いんだ」
父ちゃんは、作り笑いを浮かべた。
「それもそうだね」
あたしは頷いておいた。そんなことは、出来ないことはこのあたしにも解っている。力でどうこうできることでは無いのだ。
扉を叩く音が響いた。
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