昔の話 15
父ちゃんの話は、真新しい事はなかった。おおむねゲームの設定通りの内容だった。ただ、ゲームの設定と違っていたのは、その行動には母ちゃんに対する愛と、生まれてこなかった赤ちゃんに対する悲しみがあっただけだった。
あたしを守るため、父ちゃんは直ぐに私兵団を辞めた。だって、あたしを捨てなかった事が解ったら、何をされるか解らなかったから。父ちゃんの頭の中には、貴族に対する怒りと憎しみがあったみたい。
デニム家の人々は、あたしとマリアが生まれるから。このあたりに居た、名医を占有してしまっていた。母ちゃんが危なかったとき、側にはまともな医者がいなかった。その時面倒を見てくれた近所のおばちゃんでは、赤ちゃんまでは救えなかった。
ちょうど母ちゃんが産み月だったと言うこともあって、実は生まれた赤ちゃんは死産では無く。生まれたのだという事にしたみたい。この時代、あまりきっちりとした戸籍という考え方が無くて、その村の村長に届ければ何の問題も無かった。
その時の村長さんは、あたしが捨子だったことは知っていたけれど。黙って出生報告書を、御領主様の処へ出してくれた。そして、あたしは腕の立つ、村の猟師の娘になった。
それからは、あたしは父ちゃんと母ちゃんに大事に育てられた。時に厳しく、とっても厳しく。たぶん愛されてね。
良くぐれなかった。あたし偉い。
「済まない。俺は御前を騙してきた」
珍しく父ちゃんがへこんでいる。流石に、泣いてはいなかったけれど、だいぶ充血している。昼間殴られたせいかもしれないけれど。あたしにはそうは見えない。
「別に騙されたなんて思わないよ」
「きっと誰かに、この事を言われるだろう。あいつらに言われるくらいなら、俺の口から言いたかった」
あたしは、その事は知ってたし。ゲームの設定通りなら、父ちゃんの気持ちの中に、貴族に対する復讐心があったことも知っている。でも、それ以上に、あたしが可愛くて仕方が無かった事も知っている。
あたしが、賢者様から色々なことを教えて貰えたのも。その気になれば、貴族の御令嬢の振りが出来るのも。村の男の子より、ずっと強かったのも。父ちゃんの愛情のおかげだと思う。
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