昔の話 14
テーブルの上に、根菜と豆のスープを置くと、ジャックがお約束の敬礼をしてみせる。この後彼は、調理場の掃除をしてから自由時間になる。たぶん、自分の時間は全くなくなったろう。早く寝ないと、明日が持たないからね。
この寄宿舎に住んでいる兵隊さんは三十五人。その全員分の食事を用意するのは、通いのメイドさんと当番兵となっている三人だけである。この時間だと、メイドさんは御屋敷に帰ってしまっているから、このスープを用意したのは彼だけである。つまり後片付けは他にいる兵隊さん二人しかいないことになる。一寸気の毒になった。
「何だか悪いね」
「俺は既に喰っちまったから気にすんな」
父ちゃんがそんな事を言ってくる。なんか違うんだけれどもなーと思いながら、もくしのすぷーんですーぷを口に運ぶ。少し濃いめの味付けは、解らないでも無い味だった。脳筋の作る料理だもの、塩気が如何しても強くなる。
食事を始めてしまってから、手を洗うのを忘れていた事に気が付いた。父ちゃんが何も言わないところを見ると、此れから話すことで一杯一杯できが付かないのだろう。
あたしは内心、どうしようかと悩んだけれど。まあ良いかと、思ってパンに手を掛ける。固いパンだったので、其れをスープに浸してふやかして食べる。流石に腹が減っていると、どんな物でも旨く感じる物だなあと、思った。
「此れから話すことは、驚かせるような事かも知れない。もう御前に黙っている訳にはいかないから。話すので……最後まで聞いてくれ」
「伯爵様が言っていたようなこと」
あたしは何でも無いように聞き返す。解っているからって言ってあげたかった。でも、父ちゃん達は今まで決して口に為ようとしなかった。それどころか、周りの村の衆も、一言も口に為なかったことだ。
たぶん皆為て、あたしのために黙っていてくれたことだ。なんだかんだ言って、皆優しい人たちなのだ。
父ちゃんの話はとても長かった。ぽつりぽつりと話す。如何しても話したくない気持ちと、今話しておかなければ行けないという気持ちが手に取るように解る話し方だった。
結論から言うと、あたしはデイモン・デニム伯爵とアリス・ド・デニム伯爵夫人との間に生まれた双子だそうだ。その事は、前世の乙女ゲームさくらいろのきみに・・・の設定なので知っていた。
奥様が獣腹と呼ばれないために、あたしにとっては爺が、父ちゃんに命じて森に捨てさせた。
その時、父ちゃんは娘を失ったばかりで、本当は赤ん坊を捨てるなんて出来ないと持っていたらしい。何しろ生まれたばかりの赤ん坊は、泣くことしか出来ない。一番無力な存在で、森の中に捨てれば、間違いなく獣の餌になる。
だけれど、爺の命令は絶対で、一兵士に逆らう事なんて出来ない。命令道理に、あたしを捨てたけれど。森を一度出たところで、見張りの目が離れたのを確認すると、全力で舞い戻って、あたしを拾ってくれた。
呼んでくれてありがとう。




