昔の話 13
ジャックの声が、木製の扉の向こうから聞こえてくる。ぶつぶつ文句を垂れながら、給仕用のワゴンを押しているのが聞こえる。どうせ来るなら、皆が食べ始める前に来れば良いのにと、呟いているのがまる聞こえである。あたしは、目も良いけど耳も良いのだ。決して、寄宿舎が安普請だからでは無い。たぶん。
父ちゃんに一寸合図をすると、あたしは席を立った。そして、ちょうど彼が扉の前に立った頃を見計らって、扉を引き開けた。はたしてヤンキー顔のジャックが、面食らった様な顔を為て立ち尽くしていた。
ジャックの前には配膳用のワゴンがあり。そのワゴンの上には、一人分の晩御飯が載せられている。思った通り、深皿に盛られた根菜と豆のスープ仁別の皿に載せられたパンがあった。
ジャックは慌てたように敬礼を為てみせる。勿論あたしも敬礼で返す。なんだかんだ言っても、ここは軍施設なのだ。
「お食事をお持ちいたしました。申し訳ありませんが、肉の類いは残っておりませんので、パンを余計にご用意いたしました」
文句を言っていたのはそう言う事か。あたしは納得がいった笑顔になる。意外だけれど、こいつはそういった所がある。腹の中は綺麗な男だった。
用意しておいた肉は、皆食べてしまったのだろう。後は明日の朝食に回さなければならない。当然のことながら、寄宿舎にいる兵隊にとって、朝の食事は大事なのだ。
「ご苦労」
父ちゃんがジャックを労った。
「御免ね。ありがとう、嬉しいわ」
勿論あたしも労うことは忘れない。今度お尻を触ってきても、一寸ひねるだけに留めて上げようと思う。前回は、腕の筋を痛めるほどひねり上げたので、少しばかり反省はしているのだ。彼はあのあと一週間、弓の練習が出来なかったらしい。ずっと面白くも無い、走り込みばかりだったらしい。
後から足されたような豆と根菜類が浮いていた。たぶん、最初に煮こんだ野菜の類いは、綺麗に兵隊さんのお腹に入ってしまったのだろう。スープだけが残ったところへ、新たに野菜を切って足したのだろう。其れなりには気を遣ってくれているのだ。
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