どうすることも出来ない災害 2
あたしの中で、何かが切れた気がした。予想通りのことが起きたに過ぎない。でも、今まで起こらなかったのである。本当に起こるとは思わなかった。
「済みません。どれだけの被害ですか?」
あたしは思わず質問してしまう。やはり故郷のことだけに気にはなる。村の衆の顔が何人も浮かぶ。一緒に遊んだ友達だって居るのだ。その友達や家族に何かあったら、たまらなく辛い。
十二歳の子供に何が出来る子も解らない。よく転生物のラノベなんかでは、前世の記憶をフル活用して、みんなを救う話があるけど、単なるできの悪い不良でしか無かった、あたしには何をどうすることが出来るか解らない。特別な知識も経験もまるっきり無いのである。
「状況は不明です。かなり広域に水害が発生していることだけは解っているのですが。此れから現場まで赴いて、その場所で対処することになっております」
ウェイトレスさんにマークと呼ばれた、兵士はあたしの質問に対して律儀に応えてくれる。
「ちょっと待ってて、今扉を開けるから」
ウェイトレスさんはすぐに扉を開けた。猛烈な風ととんでもない雨が開けた扉の向こうから、雨具を来た体格のいい男とともに入ってくる。彼はありがとうと礼を言いながら、フードを外す。
黒い短髪に黒い瞳が、凜々しくも好感の持てる顔があった。歳はウェイトレスさん同じくらいだろうか。
「済みません。開いているようでしたので、つい声を掛けてしまいました。協力していただければ、領主様から協力に見合った、お礼がいただけるはずです。是非協力していただけないでしょうか」
マークは姿勢を正して頭を下げてくる。領都の兵士の中にも、こんな一生懸命な人が居る。
「ちょっと待っててね。主を呼んでくるから、まだ寝ていないと思うから」
彼女が小走りに酒場から、厨房へ入って行く。
「どうした。何があった」
たぶん料理人の声だろう。
「済まない。食事中大変失礼する。冷めないうちに食べてくれ」
マークは雨具から水滴を盛大に流しながら、扉の前で立ち尽くしている。その様子では、下着まで既にびしょ濡れだろう。この時代の雨具では、それほど役に立ちはしないのだろう。




