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山猫は月夜に笑う 呪われた双子の悪役令嬢に転生しちゃったよ  作者: あの1号


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お姉ちゃんは悪役令嬢?3

 お宝は荷台の中で、あたしの顔を見つめて惚けていた。そりゃそうかとも思う。何しろ自分と同じ顔をしている人間が、誘拐犯から救い出してくれたのだから。

 あたしはマリアの視線にはかまわずに、視界を広く採るようにする。突発的なハプニングが起きても対処できるようにするのだ。でも、あたし達は運が良い。ほとんど時間をかけずに制圧できたとは言え、馬が驚いて暴走しなかっただけでも良かった。

 ゲームのオープニングシーンでは、馬が暴走して、3人とも瀕死の重傷を負って、あたしらは簡単にとどめを刺せた。その襲撃時には馬が暴走するように仕向けたんだけどね。

 今のあたしは、あのナーラダのリコじゃないから。悪役令嬢に成り済まして、悪逆非道の悪い子じゃないからね。平和な日本に生まれて、17年と3ヶ月を過ごした、普通の不良だから。

 そりゃ喝上げもしたし、万引きもしたけど、それほど悪いことはしていない。そんな悪いことが出来るような人間でもない。悪い男に引きづられて、その男の言いなりに成っていた。その男の運転するオートバイでの、パトカーとの追いかけっこの最中に、大型ダンプに正面から突っ込んで、顔面から道路にキスをした。そりゃ死ぬよね。よい子は、ちゃんとヘルメットを被ってバイクに乗ろうね。それと、あんまりな男とは付き合わない方が良いよ。

 父ちゃんが、あたしに視線を向けながら、馬の首をなでた。たぶんこれで馬の暴走はなくなった。誘拐犯の2人組はだいぶ毒が回ってきたらしく。青い顔をして震えている。良い感じである。

「ニック、手を貸して」

 あたしはそんなことを言いながら、荷馬車の荷台によじ登る。今のあたしには少々高くて上りにくい。それでも、村の子達よりは身軽なんだけどね。

「上手くいったねー。死人なし。お嬢様はどこにも怪我なし。少しばかり汚れたけれど、洗えば綺麗になる」

 あたしは、最高に機嫌良く話しかけたのに、マリアお嬢様はおびえた視線を向けてくる。まだ縛めも解かれていないし、あたしらは正義の味方っぽくもないし、怖いよね。

 ニックが、森の中から姿を現してくる。麻の胴着に木綿のズボン、なりは父ちゃんと同じ格好をしている。父ちゃんの弓よりは少しばかり小ぶりの短弓を、肩にかけた状態でこちらに歩いてくる。

「しっかし、おまえにそっくりだね。こっちのお嬢の方が綺麗みたいだけど」

 にやにや笑いをしながら、のぞき込んでくる。ザ、悪人って感じの言いぐさである。此奴は、悪人ではあるんだけどね。

「馬鹿いってんじゃないよ」

「さ、お嬢様、紐を解いてやるから、おとなしくしててね」

 あたしは、懐からナイフを取り出した。

 

 


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