昔の話 12
どちらかというと職人気質の強い父ちゃんだけれど、何処か別の場所に工房を作るべきでは無かろうか。このままだと何処か身体を悪くする。あまりにも部屋が汚いのだ。男やもめにウジが湧くって本当だなぁ。
この間、あたしが掃除してから一ヶ月が経っているから。もしかするとあれから一回も掃除していないのかも知れない。一緒に住んでいたときは、あたしが掃除していたし、物作りは殆どしていなかったから。村の小屋が綺麗だったけれど、真逆寝床も酷い状態じゃ無いだろうな。
「少し待っていろ。晩飯の用意をしてくれるように、当番兵に頼んでおいたから」
この寄宿舎には、通いのメイドがいるのだけれど、この時間には御屋敷の自室に帰ってしまっている。勿論ここに居る兵隊さん達は、自分の面倒は自分で見られるくらいには鍛えられている。勿論、其れが身の回りを整えるのに、十分とは言えないのが現状である。簡単に言うと、本人が良ければそままだったりする。
そして、細々した事は当番制で、まかないなんかも担当するのだ。実際、彼らの作るまかない食は意外に旨かったりする。普段、料理などしないあたしよりは旨い物を作って食べているのだけれど。男のがさつな料理である事は言うまでも何のだ。
たぶんパンと温めたスープと、干し肉を焼いた物と要ったところだろう。それでも、食べられないよりはずっとましである。
「今日の当番誰」
「ジャックだな」
スープに野菜が混じった。あんな顔を為て、彼は意外な事に野菜好きなのだ。農家の三男で、今はまだ春先なので、新鮮な野菜が無い。持ちの良い豆や芋などが多くなる。それでも入っていないよりはましだ。
そんな事をあたしが考えている内に、ジャックの元気な声が掛かる。因みに、父ちゃんが答えてから、五分は経っている。その間、父ちゃんは困り顔であたしの顔を見詰めているだけで、一言も喋ろうとしてこない。とても話しにくい事があるのだろう。
たぶん、あたしの出生に関する事を初めて話す気になったのだろう。あたしは知っているから、全然驚かないから心配しないでと言いたくなった。今まで大事に育てられてきた事を、感謝しているし。父ちゃんのことが大好きであることは、変わらないのだから、安心していって欲しい。
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